本研究で大麦粉試料(もっちりぼし,サチホゴールデン)に高圧処理を施すことで、大麦粉試料の各粘度パラメータである最高粘度、最低粘度、最終粘度、ブレークダウン値、セットバック値が低下し、粘度上昇抑制効果があることが確認できた。 また、高圧処理を施し、大麦粉試料のデンプン粒の結晶構造を変化させることで、デンプン損傷率の上昇や、膨潤力の低下を引き起こすことが確認できた。結晶構造解析においてV型と弱いB型を示し,20°のピークが出現したことから、アミロースと脂質複合体の形成が示唆された。これらアミロースと脂質複合体によって吸水抑制やアミロースの溶出の抑制が考えられた。 以上のことから高圧処理がデンプンのアミロペクチンが形成する結晶構造に影響を及ぼすことやアミロースの溶出を妨げることでデンプンが膨潤しにくくなり、粘度の上昇を抑制していることが示唆された。 各測定結果の相関関係から、膨潤力がデンプン損傷率と負の相関関係にあり、最高粘度および比結晶化度と正の相関関係にあるためデンプンの結晶構造が粘度に大きく関わっていると考えられた。 600 MPaの圧力処理を施した大麦粉試料と未処理の小麦粉のデンプン糊化特性を比較したところ、もっちりぼしにおいては各粘度パラメータが同程度の値を示した。 以上のことから、高圧処理によって機能性成分のβ-グルカン含量を低下させることなく、液状食品に適していなかった大麦粉に起因する粘度上昇を抑制することが可能となった。このことから、調理時の粘度上昇による作業効率の低下抑制、摂食時の温度低下による粘度上昇がもたらす食味の低下抑制効果が期待されるとともに、従来までは粘度上昇が原因で低含有でしか食品に配合できなかった大麦粉を高含有で配合できることにより健康増進効果も期待される。そのため、今後の大麦粉の機能性食品への利用拡大の可能性が示された。
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