研究課題/領域番号 |
17K00816
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
大畑 素子 日本大学, 生物資源科学部, 講師 (60453510)
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研究分担者 |
矢田 幸博 筑波大学, グローバル教育院(HBP), 教授 (60751790)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | メイラード反応 / 食品 / 加熱香気 / 生理作用 / 自律神経活動 / 鎮静 |
研究実績の概要 |
食品の加工や調理工程における加熱操作では、アミノ化合物と還元糖が基質となるメイラード反応が非常に頻繁に起こり食品の品質に大きな影響を与える。この反応で生成する匂い成分は「甘く香ばしい匂い」や「ロースト臭」などの特徴を示し、加熱食品の嗜好性に関係する。 ところで食品の匂い成分の中には、嗅覚系を介して脳に伝達されたあと自律神経活動等に影響を与え、生体を覚醒させたり沈静化させたりするものが多く存在する。しかし、メイラード反応で生成した匂い成分におけるこの種の生理作用についてはほとんど報告がない。そこで、メイラード反応で生成する代表的な匂い成分2種類(2,5-dimethyl-4-hydroxy-3(2H)-furanone, DMHFと略す、および2,3-dimethylpyrazine, 3DPと略す)に焦点化し、平成29年度はこれらを単独で吸入することによるヒトの自律神経活動を評価することを目的とした。DMHFと3DPに加え、グリシンとグルコースによるメイラード反応物(複雑系)の匂いによる自律神経活動評価も行った。 ヒトの自律神経活動評価においては、従来心電図や心拍数の測定が一般的であるが、これらの測定は大掛かりな測定機器を研究協力者に装着し長時間拘束した状態で測定しなければならないこと、そして微細な環境の変化(例:小さな音、空気の流れ等)で測定データが変動し再現性をとることが極めて難しいことなどが課題となっていた。本研究では、無侵襲で短時間の測定が可能であり再現性が極めて良いヒト瞳孔対光測定装置を用いて、匂い吸入による瞳孔の縮瞳率を測定することによってを評価した。その結果、蒸留水のvaporを吸入した対照と比較して、メイラード反応物の匂い、DMHF、3DPいずれの吸入によっても縮瞳率が有意に増加し、副交感神経が優位になっていることが判明し、生体の鎮静化が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
倫理審査後、承認を得てからの研究開始であったことから、当初設定していた研究開始時期が多少遅くなったにも関わらず、予定していた研究計画はおおむね終了した。 この成果を受けて、平成30年度は末梢循環機能の解析・評価、脳疲労度の測定、脳活性度の測定を問題なく実施できると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は以下の3つについて研究を推進する予定である。 1,指先皮膚温の測定によるヒト末梢循環機能の解析・評価:交感神経活動による末梢血管の収縮あるいは拡張を測定する最も一般的な方法のひとつに、末梢皮膚温の測定がある。クリップ型温度センサーを人差し指に装着し指先皮膚温を測定する。メイラード反応物の匂い、DMHF、3DP吸入における指先皮膚温を測定し、それぞれプラセボ条件と比較する。主観的気分評価および多面的感情尺度による疲労感や集中力の意識を解析することで総合的に評価する。 2,フリッカー試験による脳疲労軽減の解析・評価:ハンディフリッカーの視標である30~70Hzで点滅する緑色発光ダイオードのちらつきを判定する試験である。被験者はそれぞれの匂いを吸入した後、視標を注視し、視標のちらつきを感じた周波数(フリッカー値)を計測する。高周波数でちらつきを感じた場合はより脳の疲労がなく、低周波数でちらつきを感じた場合は脳が疲労を感じていることを示す。フリッカー値と主観的気分評価および多面的感情尺度による疲労感や集中力の意識を解析することで総合的に脳の疲労度を評価する。 3,近赤外光脳機能イメージング(NIRS)による脳機能の評価:フリッカー試験に加え、NIRSによる脳機能の評価も行う。被験者の前頭前野にプローブを装着し、それぞれの匂い吸入後の酸素化ヘモグロビン量を測定する。集中や興奮によって脳が活発化した部分の酸素化ヘモグロビン量は増加し、一方鎮静などによって脳の活動が低下している部分の酸素化ヘモグロビン量は減少する。フリッカー試験結果と総合して評価する。
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