研究課題/領域番号 |
17K00825
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研究機関 | 熊本県立大学 |
研究代表者 |
友寄 博子 熊本県立大学, 環境共生学部, 准教授 (10347700)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 糖尿病 / インスリン / ラット / マウス / 海苔 / 海藻 / 血糖値 |
研究実績の概要 |
糖尿病の予防に寄与する食品の中に水溶性食物繊維があげられる。昨年度の研究では、海苔より水溶性食物繊維の粗画分を抽出し、品質による比較をおこなった。その結果、品質の低い海苔に多く含まれることが明らかになった。また、水溶性食物繊維を分離する際に得られる分画物であるインスリン様作用成分についても同様に品質の低い海苔に多く含まれることを明らかにしてきた。このインスリン様作用の同定を行うために、品質の低い海苔に多い成分を探索することで、その手掛かりとすべく研究を行ってきた。そんな中、昨年度は海苔に一般的に多いたんぱく質について比較を行ったが、品質が高い方がより含有量が多いことが明らかになった。そこで、本年度はインスリン様作用成分の成分同定の新たな指標を探索するために、抗酸化作用(H-ORAC値)を挙げ、品質による違いによる検討を行った。なお、抗酸化作用は糖尿病の改善だけでなく、動脈硬化改善にも資することが報告されている。本年度の実験の結果、抗酸化能は品質が高い方が高くなる傾向を示すことが明らかになり、インスリン様作用成分とは異なる可能性が示された。今後新たな指標を探索したいと考えている。 一方、先の研究では、我々が用いている海苔抽出分子量1000未満画分がラットにおける糖負荷試験でも食後血糖値を下げ、2型糖尿病モデルマウスでも血中インスリン濃度を下げる結果を得ている。そこで、その血糖降下作用が消化酵素活性阻害作用であるかを確認するために、4等級(1,3,5,7)の海苔より抽出した75%エタノール抽出液を用いて2種類の糖質消化酵素活性への影響を検討した。その結果、いずれの等級においても糖質消化酵素阻害作用は見られなかった。これらのことから、我々がインスリン様作用成分としている海苔由来低分子画分は、糖質消化酵素阻害作用を介さないで血糖値をコントロールしている可能性が明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究では、インスリン様作用成分は抗酸化作用を示す成分と一致しない可能性が示された。また、これまでの研究で示してきた実験動物における血糖降下作用や高インスリン血症改善作用が消化酵素阻害作用によらないことが明らかになった。このことは、本実験の成分がインスリン様に働いている可能性がより深まったと考えられる。また、昨年度の研究で、作用成分抽出には品質の低い海苔が適していることも明らかにした。このようなことから、本年度は効率よくインスリン様作用成分を抽出し、分離・精製を行うことで、物質同定につなげていきたいと考えている。以上のことから、本研究はおおむね順調に進展しているものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画を大幅に変更することなく、下記の方針で進めていく予定である。これまでに引き続き、インスリン様作用物質の分離・精製を進めて、動物での評価につなげていきたいと考えている。インスリン様作用のスクリーニングには、これまで同様に正常ラットより摘出した脂肪組織を用いて脂肪分解抑制作用を指標として評価する。先の研究でインスリン様作用成分の抽出には品質の低い海苔が適していることが明らかになっている。したがって、漁連より提供いただいた廃棄同等の低品質海苔を活用して研究を進めていきたいと考えている。作用物質の分離・精製については、まず熱水・75%エタノール抽出を行ったのちに、分画分子量1000の分離膜で分けた画分を調製する。この画分をさらにオープンカラムにより分画し、吸光度測定、TLCによる物質同定を行うことで活性画分を得たいと考えている。作用画分のスクリーニングは上記方法を用いて、さらなる絞り込みを行う。オープンカラムによる精製は再現性の確認が行われてこなかったため、再現性ならびに分離条件も含めて検討していきたいと考えている。この方法により精製が進めば、この成分について糖尿病モデル動物での評価を行い、抗糖尿病効果を発揮するか、糖負荷試験、長期摂取等も試験を行い明らかにしていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究は順調に進んだが、研究が効率よく進められたため、繰越金が出た。本年度はさらに動物実験を予定しているため、多くの費用がかかることが予想される。
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