研究課題/領域番号 |
17K00826
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
都 甲洙 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (40385993)
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研究分担者 |
佐藤 眞直 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 産業利用推進室, 主席研究員 (30360837)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 調理と加工 / ミクロからマクロ計測 / 食品内部構造 / 気泡 / 氷結晶 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,食品の調理・加工における職人の匠技を解明するため,食品成分,水・氷結晶,気泡のミクロからマクロ構造の3次元計測を行い,職人の調理・加工技を定量化する.本年度は,アイスクリームの新たな品質評価法を提案するために,気泡,氷結晶,乳製品の混合バランスを定量化した.冷凍米飯の長期保存における氷結晶を計測した. アイスクリームの構成要素は,気泡,氷結晶,乳製品に大別され,アイスクリームの最終品質に大きな影響を与える.従来アイスクリームの品質評価は,気泡,氷結晶,乳製品などの構成成分各々の物理・化学的な要因を個別に官能検査と1対1で比較評価することが多く,これらの構成要素を同じ試料から同時に計測することが困難であった為、試料個体差の影響が各構成要素と品質との相関を比較検討することを阻害していた.また,気泡,氷結晶などの物理的な要因の計測には,計測装置の計測体積の制限により,同じ試料でも得られた測定値間のばらつきが多く,信頼性や再現性に疑問が残されている.具体的には,重量オーバーラン(OR)を測定,極低温ミクロトームスペクトルイメージングシステム(CMtSIS)によりミクロからマクロの気泡,氷結晶,乳製品を計測し,その体積割合による体積ORVを求め,アイスクリーム構成要素の混合バランスを定量化した.冷凍食品内の氷結晶は,光学顕微鏡,電子顕微鏡,SEM,X線CTおよびMRIにより計測されてきた.しかし,これらの装置では,空間分解能の制約とともに,ある一定の計測範囲内における単一画像の計測にとどまっているという限界があった.具体的には,冷凍米飯の長期保存における氷結晶サイズを計測するために,一定の計測範囲内における氷結晶の単一分光画像による計測,炊飯前の米粒の浸漬時における胴割れと水分浸透の計測,および胴割れ箇所における氷結晶の連続分光画像による計測を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アイスクリーム内の気泡,氷結晶,乳製品の混合バランス定量化として,重量ORと体積ORVを求めた.アイスクリームは,6段階ORのコントロールが可能なソフトクリームフリーザーを用い,低,中,高の重量ORを製造した.CMtSISのXYステージによる自動位置決めは,計測範囲194×154µmに相当する50倍の対物レンズを用い,同一断面から36枚の画像を取得・結合し,気泡,氷結晶,乳製品を計測した.体積ORVは,気泡の面積と切削厚さにより算出した.低重量ORの平均が13.5%,体積ORVの平均が10.5%であった.中重量ORの平均が44.1%,体積ORVの平均が42.8%であった.高重量ORの平均が73.8%で,体積ORVの平均が77.7%であった.これにより,CMtSISにより算出される体積の割合から体積ORVの算出が再確認された.また,X線CTによりアイスクリーム内部構造を計測した. 冷凍米飯の長期保存における氷結晶は,一定の計測範囲内(540 μm×432 μm)における氷結晶の単一分光画像による計測,炊飯前の米粒の浸漬時における胴割れと水分浸透の計測,および胴割れ箇所における氷結晶の連続分光画像による計測を行った.氷結晶の相当円直径の平均値は,凍結直後が22.7 µm,12ヶ月間保存後が36.6 µm(凍結直後の約1.6倍)であった.保存期間が長くなるにつれて,小さな氷結晶が減少し,大きな氷結晶が増加した.米粒の吸水開始から4分後に胴割れ箇所に水が浸透し,26分後に全体に浸透した.氷結晶の連続分光画像計測では,統合画像の大きさが3850 µm×420 µmで,氷結晶短軸の最小1.4 µm,長軸の最大692.6 µmで,相当円直径の最小4.0 µmから最大440.7 µm であった.また,単一分光画像の計測範囲より大きな氷結晶および胴割れ箇所の氷結晶が計測された.
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今後の研究の推進方策 |
本年度は,重量ORとCMtSISによる36枚の結合画像から体積ORVを計測した.36枚の結合画像の実寸法は1164×924 µmで,この広範囲で,気泡の短軸最小0.9 µmから長軸最大561.1µm まで計測された.また,気泡,氷結晶,乳製品の3次元像を対物レンズ50倍の計測範囲(260×206×400μm)で構築した.食品のミクロからマクロ構造の3次元計測に基づく職人の調理加工技の定量化は,上述した気泡計測のように,氷結晶,乳製品についても,広範囲計測を行った上, これらの相互関係に基づき解析される. 一方,高輝度光科学研究センター(SPring-8) X線CTで凍結保存中のうどんの乾燥層と未乾燥層を計測した.SPring-8により得られる3次元画像の実寸法は,9.5×9.5×1.5mmである.来年度は,本年度購入した赤外線カメラとSPring-8のBL14B2ラインを用い,アイスクリーム内の気泡,氷結晶,乳製品の混合バランスの3次元計測を行うことにある. アイスクリームは,本年度と同様に,供試試料のアイスクリームは,6段階オーバーラン(OR)のコントロールが可能なソフトクリームフリーザーを用い,低,中,高の重量ORを製造する.重量ORを算出した後,SPring-8により気泡,氷結晶,乳製品3次元計測を行う.X線CT観察においては使用するX線のエネルギーは12.4keVに設定する.上記試料ホルダーを設置する回転試料ステージ下流側にはX線CCDカメラを設置する.一方,X線透過画像を取得する際,アイスクリーム周辺部を冷却することで,試料の融解を防止する.試料ステージを回転させながら試料のX線透過画像をX線CCDカメラで測定するX線CT測定を繰り返し行う.得られた一連の2次元画像から3次元画像を再構成し,気泡,氷結晶,乳製品の体積を算出する.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度は,本課題の最終年度で,本研究の成果一部を,オーストラリアのメルボルンで開催されるICEF 13 (The International Congress on Engineering and Food)で,発表する予定で,その発表申し込みをしており,今後,学会参加における出費を伴う.また,論文としての投稿を予定し,その掲載料としての使用を予定している.
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