緑黄色野菜に含まれる色素は、光によって退色を引き起こすため、食品業界で問題になっている。本研究では、脂溶性色素の光退色抑制を目的とした。これまでの研究により、低いエタノール濃度の水-エタノール溶液中で、クロロフィルは自己凝集体を形成して光退色を防ぐことが分かった。 本研究では、エタノールの代わりに乳化剤を用いて、クロロフィルの光退色を抑制することができないかを検討した。乳化剤は、食品添加物として用いられているショ糖脂肪酸エステル(SE)、ソルビタン脂肪酸エステル(TW)、キラヤサポニン(QS)で、それぞれの乳化剤で最も親水性の高いものを選択した。クロロフィルの光退色は、乳化剤の種類に大きく影響を受けた。TWは、クロロフィルの光退色に影響しなかったが、SEとQSはクロロフィルの光退色を著しく抑制した。このメカニズムを解明するために、UV-Visスペクトルの測定を行ったところ、光退色の抑制効果が高い乳化剤ほど高波長側のピークの存在割合が大きくなった。これは、凝集体の形成が増大していることを示唆している。蛍光スペクトルの測定においては、クロロフィルのモノマーを示すピークはほとんどみられず、凝集体として存在していることが分かった。また、CDスペクトルの測定から、乳化剤溶液中ではクロロフィルはランダムな構造で存在していることが明らかになった。さらに、粒子径を調べたところ、いずれの乳化剤を用いた場合も約100 nmの小さな凝集体を存在していることがわかった。以上のことから、糖を含んだ親水性の高い乳化剤とクロロフィルとは相互作用が弱いためにミセルを形成せず、クロロフィルは密に詰まった小さな自己凝集体を形成する。そのおかげで、内側のクロロフィルを光から守り、退色を防いだのではないかと考えられる。つまり、クロロフィルとの相互作用が弱い乳化剤ほどクロロフィルの光退色抑制に効果があると言える。
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