研究課題/領域番号 |
17K00842
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研究機関 | 広島修道大学 |
研究代表者 |
岡本 洋子 広島修道大学, 健康科学部, 教授 (70270022)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 食嗜好と評価 / 脂肪味 / 塩味 / 甘味 / 官能評価 / 粘性値 / 閾値 |
研究実績の概要 |
平成29年度研究実績の概要は次のとおりである。甘味や塩味の感じ方は、共存する酸味、苦味、うま味、脂肪味、温度、ハイドロコロイドなどの影響を受ける。本研究では、甘味および塩味は、油脂味(油脂添加量)が増すとともに、粘度が上昇し、甘味強度や塩味強度が減少するのではないかという仮説を検証した。油脂濃度2.0、4.0、8.0%の3種類、キサンタンガム濃度0.2、0.4、0.8%の3種類、塩化ナトリウム濃度2.0%、塩化カリウム濃度2.0%、スクロース濃度10.0%の計27種類のゾルを試料とした(いずれもw/v)。油脂を含んでない試料をそれぞれ基準試料とした。官能評価の手法(両極7点評点法)によって甘味および塩味強度の評価を行うとともに、ゾル試料についてはTV-22形粘度計(東機産業)を用いて粘性値を測定した。油脂添加量と強度および粘性値について、Pearsonの相関係数を算出した。塩化ナトリウム、塩化カリウム、スクロースに油脂を添加した試料計27種類について、いずれも「油脂を添加していない基準9試料」に比べ、甘味や塩味を強く感じた。また、これらの試料は、油脂の添加量(2.0~8.0%)が増加するとともに、塩味強度および甘味強度が上昇していることがわかった。油脂添加量と塩味・甘味強度について相関係数は0.725~0.958であった(p<0.05)。さらに、36試料における油脂量と粘性値については、油脂添加量が増加するとともに、粘性値が上昇していることが示された。相関係数は0.789~0.998であった(p<0.05)。甘味および塩味は、油脂味(油脂添加量)が増すとともに、粘度が上昇し、甘味強度や塩味強度が減少するのではないかという仮説を提示したが、仮説に反する結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、下記のような研究計画を立案したが、平成29年度は、「キサンタンガムを増粘剤として添加した油脂と甘味・塩味溶液の混合試料」について、官能評価を行って、甘味および塩味強度を調べた。さらに「混合試料」については粘度計を用いて粘度を測定した。油脂添加量(2.0~8.0%,w/v)と甘味強度・塩味強度の相関性、油脂添加量と粘性値との関係性を明らかにした。食用油脂試料、甘味試料、塩味試料は、それぞれ、食用とうもろこし油、10.0%スクロース(w/v)、2.0 %塩化ナトリウムおよび2.0 %塩化カリウム(いずれもw/v)を用いた。なお、「混合試料」の微細構造の観察は行っていない。 平成29年度には、脂肪味と甘味が共存する場合、それらの味の相互作用を検討するために、食用油脂5種類、糖質系甘味物質8種類を用いて実験を行う。「キサンタンガムを増粘剤として加えた油脂と甘味溶液の混合試料」について、官能評価によって甘味強度を調べ、さらに微細構造の観察と力学的特性の測定を行う。粘度計による粘度の測定、クリープメータによる破断応力等の測定を実施する。ヒトによる甘味強度、粘性値、破断特性値のそれぞれの項目間の相関性、ならびに項目内のデータ間の有意性について、温度設定条件別に統計解析を行う。平成30年度には、「油脂と塩味溶液の混合試料」について、平成29年度と同様な方法で実験を実施し、脂肪味と塩味を混合した場合の関係性を調べる。なお、微細構造の観察では、脂肪の分布を調べ口腔内の甘味・塩味の受容体への到達状況を推測する。平成31年度には、日本人を対象に「脂肪味を感じる」最小濃度を調べ、脂肪味の特性の一端を明らかにする。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度には、当初の研究計画に提示した5種類の油脂、食用とうもろこし油、食用こめ油、食用サフラワー油、食用なたね油、食用ごま油のうち、2~3種類を選び、10.0%スクロース(w/v)、2.0 %塩化ナトリウムおよび2.0 %塩化カリウム(いずれもw/v)について、「キサンタンガムを増粘剤として加えた油脂と甘味・塩味混合試料」について、粘度計による粘度を測定し、油脂添加量と粘性値の関係性を明らかにする。平成31年度には、「混合試料」の甘味・塩味強度について、「油脂を加えていない混合試料」を基準試料として、官能評価の手法(両極7点評点法)を用いて調べる。また、同年度には、食用油について「脂肪味を感じる」最小濃度を、約30名の実験参加者を対象に下降系列極限法によって調べ、閾値を明らかににする。キサンタンガム添加基準試料として、定量の純水に0.4%のキサンタンガムを添付した試料を準備する。キサンタンガム添加基準試料に0.1%食用油(出発濃度)を加え、油脂試料を調製する。出発濃度試料を、キサンタンガム添加基準試料を用いて倍数に希釈していき、計8サンプルを調製する。得られたデータから、全評価者のうち、50%の人が識別できる濃度をプロビット法によって求め、食用油の閾値とする。当初の計画では、「キサンタンガムを添加した油脂と甘味・塩味溶液の混合試料」について、高分解能走査電子顕微鏡(SEM)を用いて微細構造の観察を行うこととしていたが、口腔内の甘味・塩味刺激の受容体への移動状況を予測するためには、表面筋電図計による嚥下筋活動の測定を行って、仮説が支持されなかった理由を明らかにしたいと考える。嚥下筋活動の測定を本実験にどのように適用するのがよいのか検討する。平成31年度には、平成29~31年度のデータの総括を行って、投稿論文の準備をする。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度には、「キサンタンガムを増粘剤として添加した油脂と甘味・塩味溶液の混合試料」について、粘度計を用いて粘度を測定した。平成29年4月には、TVB粘度計、少量サンプルアダプター、高精度低温循環恒温槽の3種を購入する予定であったが、TVB粘度計本体は、所属大学の備品として具備されていた。業者による確認が行われ、そのTVB粘度計本体を使用することが可能であったため、少量サンプルアダプター、高精度低温循環恒温槽のみを購入した。平成30年度は、平成29年度助成金残額と平成30年度助成金を合計した助成金によって実験をすすめる。試薬・試料代、実験器具類購入費、成果発表旅費、論文投稿や学会発表のための英文校閲にあてることとする。さらに、口腔内の甘味・塩味刺激の受容体への到達状況を予測するために、表面筋電図計による嚥下筋活動の測定を行いたいと考えているので、専門知識の提供や専門知識提供旅費、分析依頼に助成金をあてる。
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