本研究の目的は、遺跡から出土した食料残滓から、古代における食生活の実態を明らかにすることである。今年度は新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、予定していた調査を制限せざるを得なかったが、これまでの研究成果の論文化を前倒しで進めることができた。 千葉県域の91遺跡565遺構から出土した約64万個体の貝類(古墳時代中期~古代)を検討して、以下のような上総・下総国域における貝類利用(採集・流通・消費)の実態を明らかにした。①地域における食の実態では、沿岸部は集落周辺で貝類を採集しており、地域的な食の多様性が認められた。内陸部でも新鮮な海産貝類を食べている集落があった。また、儀礼や饗宴などの祭祀には、日常的に食している貝類を用いていた。②令制以前の様相では、律令制以前から、新鮮な貝類が国・郡域を超えて水運で流通していた。サザエなどの外海岩礁性の貝類は国府域近辺でなくても出土しており、村田・養老川流域のように様々な貝類が運ばれる地域も存在した。③律令制下の様相では、大量の貝類が陸路で内陸部まで運ばれた。分水嶺を越える新鮮な貝類の運搬は、奈良時代の大規模な開発・移入の影響と考えられる。また、地域においても貝類利用の階層性が存在した可能性がある。 この成果について、近江貝塚研究会において『東京湾東岸における律令国家形成期の貝類利用』と題したオンラインでの口頭発表をおこない、『奈文研論叢』第2号に論文が掲載された。また、東京都埋蔵文化財センターで講演をおこない、研究成果の社会還元や普及に努めた。
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