研究実績の概要 |
本研究では、出産時に得られた母親の血清ω3系多価不飽和脂肪酸(以下ω3)と1ヶ月後における抑うつとの関連を検証した。データセット及び生体試料は、「子どもの健康と環境に関する全国調査」で富山大学が独自に行っている“追加調査”に登録されている褥婦を対象とした。3,837 名のうち、生体試料(出産時の褥婦の血清)が欠損している者、質問票に欠損があるものなどを除外した。さらに2,971名中より産後1ヶ月において抑うつが認められる褥婦(エジンバラ産後うつ病質問票(EPDS)で9点以上)424名をケースとし、年齢・学歴・世帯収入でマッチングさせた抑うつのない褥婦(EPDSで9点未満)をコントロールとし、1:1のケース・コントロール研究を行った。それぞれの脂肪酸を五分位に分け、最低五分位を参照値として共変量で補正し、ロジスティック回帰分析にてオッズ比(OR)を算出した。 その結果、血清ω3は最低五分位と比較して第2~第5五分位では、OR=0.97(95%信頼区間(CI)0.62-1.52)、1.09(95%CI 0.70-1.69)、1.09(95%CI 0.70-1.71)、0.90(95%CI 0.57-1.43)といずれも統計的な有意差はなく、またトレンド検定でも有意な関連は認められなかった(p=0.8)。個別のω3(エイコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸)においても特に有意差は認められなかった。 関連が認められなかった理由としては、日本では諸外国と比べるとまだ魚の摂取量は多い方であり、ω3と産後うつに関連が見られるところまでには至っていない可能が考えられた。また、血清ω3の代謝は女性ホルモンの影響を受けることが知られており、出産前後で激変することより、これらの女性ホルモンでも補正もしくは層別化等を行って解析をする必要があると考えられた。
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