研究課題/領域番号 |
17K00851
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研究機関 | 修文大学 |
研究代表者 |
伊藤 友子 (大矢友子) 修文大学, 健康栄養学部, 准教授 (80329648)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 精神疾患 / グリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素 / カルボニル化合物 |
研究実績の概要 |
精神疾患の発症には遺伝要因と環境要因が複雑に関与することから発症予防は極めて困難であり、早期介入・進展予防が不可欠である。にもかかわらず、精神疾患の病態を顕著に示すバイオマーカーは未だ発見されていないのが現状である。その理由として、精神疾患は脳の病態と考えられているが、被験者の脳組織を採取することは不可能なためである。患者の末梢血由来リンパ芽球様細胞株を利用しプロテオミクス解析を行った結果、健常者に比してグリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素(GAPDH)の発現量が増加傾向を示すことを見いだした。GAPDHは解糖系の主要酵素の一つである一方で、酸化ストレスなどに由来するカルボニル化合物を代謝する。これまでに神経系の培養細胞を利用して、過剰なカルボニル化合物が存在するとGAPDHは修飾を受け、解糖系酵素としての活性を失い、核へ移行しアポトーシスの制御を担うことを明らかとした。本年度では、末梢血由来リンパ芽球様細胞株を用いて、GAPDHの解糖系酵素としての活性であるデヒドロゲナーゼ活性を測定した。GAPDHタンパク質発現量は統合失調症患者で健常者と比較して増加傾向が認められたが、GAPDHのデヒドロゲナーゼ活性は統合失調症患者で健常者と比較して低下傾向が認められた。これらの結果より、統合失調症患者においてGAPDHは解糖系酵素としての活性を一部失っていることが予想された。また、健常者ではデヒドロゲナーゼ活性は検体間のばらつきは殆どなく一定であったのに対し、統合失調症患者では検体間(患者間)で大きなばらつきが認められた。今後、病態とデヒドロゲナーゼ活性の関連を検討する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
末梢血由来リンパ芽球様細胞株を用いて、GAPDHのタンパク質発現量とそのデヒドロゲナーゼ活性の相関を検討するため、それぞれの測定条件検討を行い、ともに主な実施計画を達成した。具体的には、ヒト末梢血由来リンパ芽球様細胞株から抽出したタンパク質について、抽出条件と酵素活性測定条件を決定し、同時に多検体を解析する手法を確立した。
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今後の研究の推進方策 |
確立した手法を利用して、末梢血由来リンパ芽球様細胞株におけるGAPDHの酵素活性とタンパク質発現量について、検体数を拡大し比較検討を行う。さらに、GAPDHの酵素活性、特にデヒドロゲナーゼ活性の変動と病態の関連について臨床情報を基に詳細な解析を行う。また、末梢血由来リンパ芽球様細胞株の可溶性タンパク質において、メチルグリオキサール修飾タンパク質量は統合失調症患者と健常者の間に有意な差は認められなかったが、これまでの研究成果からGAPDHがメチルグリオキサールによる選択的な修飾を受けている可能性が考えられた。既に確立しているメチルグリオキサール修飾タンパク質のプロテオミクス解析手法を応用し、末梢血由来リンパ芽球様細胞株におけるGAPDHの修飾の程度や修飾部位について詳細な解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
酵素活性測定について多検体を同時に行い、それらにかかる消耗品費を抑えることができたため。次年度使用研究費の多くは、種々の生化学試薬、分子生物学的試薬、抗体、ELISA測定に使用するプラスチック類器具(96穴プレートを含む)等の消耗品費が占める。
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