慢性炎症は、メタボリックシンドローム発症の主要な成因であると同時に、癌遺伝子の活性化やゲノム不安定性の誘導を通じ、癌の発症、進展に寄与している。癌遺伝子が引き起こす作用は、細胞内代謝の変化(ワールブルグ効果:癌代謝)と免疫抑制作用による癌細胞の保護(癌免疫)に集約される。これまで、大豆イソフラボンがメタボリックシンドロームの基盤病態である慢性炎症を抑制し、免疫細胞、代謝病態へ作用することを検討してきたが、本研究は、大豆イソフラボンの癌代謝及び癌免疫への作用を検証し、副作用が少ない食品機能成分の癌治療への参画といった創薬的な新しい可能性を検証することを目的とする。 抗癌剤を用いても臨床画像では指摘できないレベルで残存する治療抵抗性の癌細胞は、幹細胞の性格を有することから癌幹細胞として知られている。わずか数%にしか満たないが、癌組織の司令塔として細胞内代謝及び免疫系の変化を主導し多くの細胞に分化する。特に、血管内皮細胞で腫瘍血管を誘導し、免疫抑制細胞に分化して細胞障害性T細胞による攻撃から癌細胞を保護することは、癌の治療抵抗性及び転移の本態とも考えられている。そこで、癌幹細胞検証システムと癌モデルマウスを用いて、大豆イソフラボンの癌幹細胞への効果を検討する。 癌幹細胞における大豆イソフラボンの効果を検討するため、幹細胞の性質を検定するシステムとして3次元培養スフェロイド法を用いて検討した。これは、in vitroにおいて、より生理的な組織に近い状態で培養し薬物作用を検証することができる。その結果、大豆イソフラボンによりスフェロイドの萎縮および死細胞の増大が認められ、スフェロイドの形成能が減少することを見出した。そこで、大豆イソフラボンがどのようなメカニズムを介して癌幹細胞に影響しているのかを検討するため網羅解析を行い、候補となる因子を探索した。
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