研究課題/領域番号 |
17K00858
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
大篭 友博 九州大学, 医学研究院, 助教 (80584755)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | エストロゲン / 統合失調症 / 神経炎症 |
研究実績の概要 |
中枢神経系のニューロンやグリアにはエストロゲン受容体が発現しており、出産や閉経に伴うエストロゲンレベルの変動が統合失調症の発症や病態に関連している可能性が指摘されているが、その詳細は不明である。本研究で我々は、マウスに銅キレート剤であるクプリゾンを摂取させ、白質障害仮説に基づく統合失調症モデルを作出し、植物由来エストロゲン類縁体(ゲニステイン)の海馬グリア細胞への作用を形態学的・分子生物学的に検討した。クプリゾン摂取マウスの海馬では、オリゴデンドロサイト前駆細胞・成熟型オリゴデンドロサイトの空間分布密度に変化は見られなかった。一方でCA1領域の網状分子層ではミエリン塩基性タンパク質(MBP)の染色性が低下したが、ゲニステインの腹腔内投与によってMBPの変化は抑制された。また同層ではクプリゾン摂取によってミクログリア・アストロサイトの空間分布密度、およびミクログリア上の貪食性マーカーであるケラタン硫酸糖鎖抗原の発現が上昇したが、ゲニステイン投与によって部分的に抑制された。フローサイトメトリーと定量PCRを用いた解析では、クプリゾン摂取によって上昇するミクログリア貪食性マーカーCD68、および炎症性サイトカインIL-1βの発現レベルをゲニステインが選択的に抑制する傾向が見られた。一方で、抗炎症性サイトカインIL-4の発現レベルはクプリゾン摂取によって上昇するものの、ゲニステインによる抑制効果は認められなかった。さらにクプリゾン摂取によって、一部の個体においてプレパルス抑制の障害が見られたが、ゲニステイン投与によって障害が回復する傾向が見られた。以上のことから、ゲニステインはミクログリアの貪食能・炎症能を選択的に抑制することによって、統合失調症における白質障害を抑制する可能性が示唆される。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
統合失調症の病態形成過程における神経炎症の評価と、ゲニステインの抗炎症効果については、ミクログリア・アストロサイトいずれに対しても効果が認められており、特にミクログリアについてはそのメカニズムについても明らかになりつつある。さらに、その抗炎症効果が神経回路特異的であること、ミクログリアの特定の活性化ステップを抑制することが明らかになってきたのは大きな進捗である。一方で、アストロサイトに対する抗炎症効果はそのメカニズムが未だ不明であること、抑制性ニューロンに対する効果が特段観察できていないことは今後の課題とされる。
|
今後の研究の推進方策 |
ミクログリアに対する抗炎症効果については、現在論文投稿準備中であり引き続き追加実験を進める。アストロサイトに対する抗炎症効果についてはGFAP、pSTAT3、S100βなどの各種マーカー分子との共染色を用いて、その効果を定量的に評価する。近年はアストロサイトエンドフィートによるシナプスの機能調節にも注目が集まっていることに着眼し、シナプスマーカーとの共染色によってトリパータイトシナプスの構造的な変化も解析する予定である。一方で、平成29年度までに進捗が得られなかった抑制性ニューロンに対する効果については、ゲニステイン以外のエストロゲン様化合物(ダイゼイン、エストラジオールなど)を用いて追加検討する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
年度末に購入した試薬が、製造中であったため納品が間に合わないと予測されたため、次年度の初頭に使用することにした。
|