研究課題/領域番号 |
17K00860
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
林 久由 静岡県立大学, 食品栄養科学部, 准教授 (40238118)
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研究分担者 |
石塚 典子 静岡県立大学, 食品栄養科学部, 助教 (30440283)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 促進拡散輸送 / 能動輸送 / Na依存性 |
研究実績の概要 |
小腸での栄養素の吸収機構は、生体が生きていくために外界から必要なエネルギーを効率的に取り込む為の、最も根源的な機構である。その機構の中でも、特にグルコースの吸収機構は、多くの生物において普遍的な機構であり、これはすでに確立されていると信じられている。具体的には、栄養素吸収細胞の取り込み機構は、Na依存性の二次性能動輸送体であるSGLT1であり、血液側への出口の機構は拡散輸送体であるGLUT2を介して行われていると考えられている。しかし、このSGLT1を介するグルコース吸収機構は、唯一の機構ではなく、他にも別の機構が関与するという実験データが、いくつかのグループから提唱されてきている。それら研究ではSGLT1による能動輸送以外に、拡散による吸収機構が存在することが提唱されている。拡散輸送機構の経路に関しては、小腸細胞間隙を介する経路と、グルコースの出口である拡散輸送体GLUT2が、新たに管腔側に導入され、それを介して輸送されることが提唱されている。しかし、この拡散によるグルコース吸収機構のアイデアは、一般的には受け入れられていない。この大きな理由は、摘出小腸標本での拡散輸送が測定されていないこと、また、その生理学的意義が説明されていないことが大きい。このため、本研究では、能動輸送機構から拡散機構へのモード変化が存在することを検証し、その生理学的意義を検討することを目的とした。マウス小腸では、食事により、上部小腸のグルコース吸収活性は大きく調整されていることが明らかになったが、拡散輸送機構に関しては、確認できなかった。今後は、種差等を含め検討する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
消化管でのグルコースや、アミノ酸などの主要な栄養素の吸収調節機構に関しては、栄養素、摂取量が増加した場合、輸送体の総数や、個々の輸送体の機能を増加させ適応することが一般的である。グルコース吸収機構でも、摂取量が増加した場合は、転写・翻訳調節を介して、SGLT1の輸送体数が増加し、グルコース輸送活性が増加することが示されている。しかし、摂食動物を用いた予備実験の結果では、SGLT1の輸送活性は上部小腸では観察できなかった。このためSGLT1の活性調節が食事により調節されているかを様々な条件下で検討した。摂食動物では観察されなかったSGLT1の輸送活性が、絶食時では上部小腸でも観察された。この現象は上部小腸で顕著であった。これはSGLT1が主要なグルコース吸収の役割をしていると考えると、全く逆の現象である。このため、Ussingチャンバー法を用い、アイソトープラベルしたグルコースで、拡散輸送体の関与の検討を行った。SGLT1による輸送活性は、特異的抑制剤であるフロリジンを用い評価し、フロリジン非感受性の成分を拡散成分として評価した。しかし、動物個体で測定されているような、SGLT1による輸送量より大きな拡散輸送体の関与は観察されなかった。拡散輸送系が観察されない理由が、摘出小腸標本を使用したことによるのかを確かめるため、麻酔下での動物を用い、小腸還流系で検討をおこなった。しかし、Ussingチャンバー法と同様にグルコース輸送の大きな拡散成分は観察されなかった。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の研究からは、SGLT1の輸送活性はマウス上部消化管において、食事により大きく調節されることが明らかになった。また、マウス小腸では、SGLT1以外の大きな拡散輸送によるグルコース吸収は観察されなかった。これはラットの小腸還流系を用いた過去の実験結果と矛盾している。このため、今年度は、SGLT1の食事による活性調節機構に種差があるか否かを検討する予定である。具体的には、マウスで行った実験と同様に個体レベルと単離小腸レベル(Ussing チャンバー系)で行う。これら実験では管腔側グルコース濃度や、絶食時間と再摂食させるタイミングを変化させ、その際のSGLT1活性(短絡電流で評価)を、グルコースの吸収フラックス(in vivoとin vitro)で評価する予定である。
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