小腸管腔内でNa+は電気的中性のNa+吸収機構とNa+依存性栄養素吸収機構より吸収されると考えられている。前者はNa+/H+交換輸送体であるNHE3が主要な輸送体として機能し、食餌由来の食塩を吸収している。一方、小腸ではさまざまな栄養素が吸収されており、Na+依存性の栄養素吸収機構を介して食事由来のNa+より、はるかに多量のNa+が必要とされることが予期される。また、このNa+供給に細胞間隙が重要である可能性は指摘されていた。しかし、細胞間隙のイオン透過性の分子実体が長らく不明であったため、実際に実験的な証明は行われていない。近年、細胞間隙の陽イオン選択的透過性の分子実体はクロージン15であることが判明した。そのため本研究では、Na+依存性グルコース吸収機構におけるNa+輸送と細胞間隙の重要性の検討を試みた。野生型マウスにおいて経細胞性のNa+輸送路のみが評価できる短絡条件下では、グルコース誘発短絡電流上昇(ΔIsc)とほぼ同等の粘膜側から漿膜側への一方向性22Na+フラックス(ΔJM→S)の増加が観察された。また、傍細胞経路のNa+輸送も評価できる非短絡条件下では、粘膜側負電位が発生し、短絡条件下とほぼ等しいΔIscが観察されたが、ΔJM→Sは強く抑制され、吸収性のNa+フラックスはほとんど観察できなかった。一方、クロージン15欠損マウスでは、短絡条件下においてΔIscとほぼ同等のΔJM→Sが観察された。しかし、非短絡条件下では、野生型より大きな粘膜側負電位が観察されたにもかかわらず、ΔJM→Sの抑制は小さく、吸収性のNa+フラックスがみられた。以上より、SGLT1により栄養吸収細胞に取り込まれたNa+は、Na+ポンプを介して漿膜側にくみ出された後、起電性のSGLT1により発生した粘膜側負電位を駆動力として、クロージン15からなるタイト結合を介して管腔側にリサイクリングされている可能性が示唆された。
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