研究課題
慢性腎臓病(CKD)患者やCKD末期の透析導入患者では、血管の石灰化が進行し生命予後が悪化する。この血管異所性石灰化には高リン血症が大きくかかわることから、食事からのリン摂取の制限が重要となっている。このような状況から臨床栄養においては新たなリンプログラムの構築が必要となっており、臨床現場に応用できる分子栄養学的な理論の確立が望まれている。そこで本研究では骨と血管の臓器連関から異所性石灰化の分子基盤を明らかにし、骨・血管連関リン調節分子が血管平滑筋細胞に及ぼす影響を明らかにする事で、異所性石灰化を予防するリン栄養療法の開発を目指している。昨年度に引き続き、申請者が研究を進めている新規骨・血管連関分子の解析と血管石灰化における機能の解析を行った。本分子は数少ない既報の中で、炎症系の細胞においても発現が見られることから、炎症を介して血管石灰化を促進する可能性を考え、in vitroとして血管平滑筋培養細胞を用いて検討を行っている。分化前の血管平滑筋細胞にLPS刺激により炎症を惹起し、タンパク質ならびに遺伝子発現量の検討を行っている。また、in vivoの解析として、CKD早期を想定したリン代謝が残存している軽度腎機能低下モデルラットを用いて、慢性的または一過性の高リン負荷を長期間行い、血管石灰化を生じさせたサンプルを用いて、発現量の変化や発現部位についての検討を行っている、これにより、本分子が異所性石灰化の初期に関与する分子であるかを明らかにしていく予定である。
2: おおむね順調に進展している
in vivoならびにin vitroの検討を順調に進めており、最終年度に向けて現在論文作成のための最終データの検討を行っている。来年度前半には、成果をまとめ投稿予定である。
現在検討を進めている細胞を用いた炎症との関連、動物における食事性リン摂取と血管摂関石灰化との関連において本分子の機能を明らかにする。また細胞モデルを用いた検討では、さらに直接的なメカニズムを明らかにするために、血管平滑筋細胞へのノックダウンを試み、石灰化への影響を検討する。ただし、本細胞は細胞増殖が非常に遅く、トランスフェクション効率もかなり悪い細胞系であるため、エレクトロポレーションを用いた条件検討を行った後、実施する予定である。血管石灰化の生じた腎機能低下動物では、血管のみならず、繊維化や腎結石の生じた腎臓での発現を検討し、慢性的な高リン食と一過性の高リン食が持続した状態における石灰化と本分子の関連を検討する。これらのことから腎機能低下したCKD患者における日常の食事からのリン摂取方法を提案できるような栄養療法の一助にしたいと考えている。
今後、高額な血管平滑筋細胞培地(24,000円/500ml)やエレクトロポレーション用消耗品に使用する予定である。また来年度が最終年度となるため、国際学会での発表や予定している2報の論文の投稿費用として使用する予定である。
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