研究課題
日本は高齢化が進み、食事で必要な栄養を摂取できず、経腸栄養剤や静脈栄養療法によって栄養補給を必要としている高齢者が増加している。栄養状態の評価にはBMI(body mass index) や血清アルブミン、総コレステロールおよび高齢者栄養リスク指標 GNRI (geriatric nutritional risk index) が利用されるが、これらの値は高齢者の健康状態や疾病による影響を受けやすく、高齢者の栄養状況を正確に反映しているとは限らない。長期間の栄養状態を把握するための方法として、頭髪中の安定同位体の利用を考えた。頭髪中の安定同位体から高齢者の栄養状態を把握するため、健常者と長期間経腸栄養剤により全ての栄養を摂取している高齢者の頭髪を採取し、頭髪中の安定同位体比(δ13Cとδ15N)を分析した。長期間経腸栄養剤により栄養を摂取している患者の頭髪中のδ13Cとδ15Nと摂取された栄養剤のエネルギー量との関係を検討した。必要なエネルギーを経腸栄養剤で摂取していた高齢者(20 kcal/kg/day以上)のδ13Cとδ15Nは、δ13C-δ15Nマップ上の健常者の測定値95%確立楕円内に分布した。一方、健常者と比べ低栄養患者の頭髪中のδ13Cは低く、δ15Nは高かった。長期間経腸栄養剤により栄養を摂取している高齢者の頭髪中の安定同位体比と摂取エネルギーとの相関について検討したところ、δ13Cは摂取エネルギーと正の相関、δ15Nは負の相関が認められたが、BMIや血清アルブミン、総コレステロールおよびGNRI とは一定の相関が認められなかった。頭髪中の安定同位体比を測定することにより、低栄養状態を推定できることが考えられる。さらに経腸栄養剤のδ15N値から頭髪中のδ15N値の増加は、経腸栄養剤のδ15N値が低いほど大きく、エネルギー摂取量が少ないほど大きかった。δ13C値の増加もδ13C値が低い経腸栄養剤を摂取している場合ほど大きかった。
3: やや遅れている
研究協力者や医療施設の援助を受け、健常者および経腸栄養剤で栄養管理されている高齢者の頭髪採取は順調に進んでいる。頭髪中の安定同位体比の分析結果から、高齢者の栄養状態はある程度把握することができたが、頭髪中の微量元素やアミノ酸分析による栄養評価は進んでいない。生活習慣病を患う高齢者や静脈栄養量法で栄養管理を受けている高齢者の頭髪中の微量元素や安定同位体比を測定し健常者と比較検討中である。
糖尿病などの生活習慣病を患う高齢者や静脈栄養量法で栄養管理を受けている高齢者の頭髪を採取を行い、微量元素や安定同位体比の分析を行なう。
(理由)購入予定していたHPLCポンプとUV検出器を購入しなかったため。共同研究者のいるドイツへの出張を計画していたが中止となったため。(使用計画)昨年、購入を見合わせたHPLCポンプとUV検出器の購入を予定している。
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Clinical Nutrition
巻: 36 ページ: 1661-1668
10.1016/j.clnu.2016.10.017
Rapid Communications in Mass Spectrometry
巻: 31 ページ: 745-752
10.1002/rcm.7841