経腸栄養剤により長期間栄養管理されている高齢者の頭髪を採取し、頭髪中の炭素と窒素安定同位体比(δ13Cとδ15N)を測定した。経腸栄養剤で必要なエネルギーを摂取している高齢者の頭髪中のδ13C値とδ15N値は健常者とほぼ等しい値であったが、エネルギー摂取量の少ない高齢者のδ13C値は健常者と比べて低く、δ15N値は高かった。経腸栄養剤で栄養管理されている高齢者の栄養摂取量と頭髪中の炭素と窒素安定同位体比との相関について検討したところ、δ13C値はエネルギー摂取量、炭水化物摂取量、脂質摂取量およびタンパク質摂取量と有意な正の相関が認められ、δ15N値はこれらの値と有意な負の相関が認められた。これらの結果から、経腸栄養剤で長期間栄養管理を受けている高齢者の頭髪中の炭素と窒素安定同位体比を測定することで、低栄養状態の推定が可能であることを明らかにした。現在、頭髪を加水分解して得られたアミノ酸の解析を行っている。 令和元年度は、昨年度の継続として、主に中心静脈栄養法(TPN)で栄養管理を受けている高齢者から頭髪を採取し、頭髪中の安定同位体比と微量元素の分析を行った。TPNで栄養管理されている高齢者の頭髪中のδ13C値とδ15N値は健常者と比べて各々高値と低値を示し、δ13C値とδ15N値との間には有意な負の相関が認められた。TPN投与期間の増加に従いδ13C値は増加、δ15N値は減少し、両値はほぼ15ヶ月で一定に達した。TPNで栄養管理されている高齢者の頭髪中の安定同位体比の測定から、TPNによる管理期間を推定できることを明らかにした。TPNで栄養管理されている高齢者の頭髪中のクロム、セレン、モリブデン濃度は健常者と比べて有意に低く、これらの元素濃度は投与期間の増加に従い減少した。頭髪中の微量元素を分析することで、患者(高齢者)の微量元素の欠乏や過剰を把握することが可能と思われる。
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