研究実績の概要 |
わが国は、鉄欠乏の有病率が非常に高い。集団データの数理解析で推定した鉄のRDAは12mgを超えており、女性では、鉄の摂取不足による鉄欠乏の蔓延とマンガン摂取の過剰傾向が続いている。そこで、食事性の鉄欠乏-マンガン過剰が、脳の代謝や機能に及ぼす影響を検討している。 鉄無添加およびアメリカ合衆国の学術審議会が定める鉄必要量の計2段階とマンガン必要量の1, 3, 6, 9倍の4段階に設定した2要因条件で飼育したラットの脳部位中ミネラル濃度(カルシウム、マグネシウム、イオウ、鉄、マンガン、亜鉛、セレン、ルビジウム)を分析した結果、重度鉄欠乏により間脳中カルシウム濃度が有意に低下、中脳中亜鉛濃度が上昇、間脳および海馬中セレン濃度が上昇した。重度鉄欠乏により、すべての脳部位中鉄濃度が有意に低下し、ルビジウム濃度が有意に上昇した。飼料中マンガンレベルの上昇に伴い、小脳中セレン濃度が有意に上昇した。ルビジウム濃度は、飼料中マンガンレベルの上昇に伴い、大脳皮質で有意に上昇し、橋で有意に低下した。また、重度鉄欠乏によりすべての脳部位でマンガン濃度が上昇していた。 鉄レベルを変数に加えた上でマンガンレベルとの間の用量効果関係を解析し、赤池情報統計量を用いて最適なモデルを選択した。海馬、線条体に加え、橋では線形モデルが選択された。大脳皮質に加え、間脳と小脳では、飽和モデルが選択された。中脳と延髄では用量効果関係は認められなかった。重度鉄欠乏では大脳皮質や海馬のカテコラミン代謝が変化していた。 また、軽度鉄欠乏-マンガン負荷ラットの行動を解析した結果、重度鉄欠乏と同様に軽度鉄欠乏でも動作を伴わない静止時間が有意に延長し、グルーミング開始遅延時間が延長する個体の割合が有意に高くなった。 以上のことから、鉄欠乏とマンガン過剰に伴う脳中ミネラルとカテコラミン代謝の異常と行動異常が示唆された。
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