本研究では過酸化水素による酸化型ペルオキシレドキシン2の過酸化とスルフィレドキシンによる過酸化型ペルオキシレドキシン2の還元によって形成される赤血球の概日リズムを自律的に発振するモデル細胞を用いて、被験者の赤血球のリズムを測定することを目的とする。これまでのモデル細胞は1週間にわたる測定の途中で培地が酸性化したために、細胞の生存能が著しく低下し、発光が減弱していた。そのため、生存能を改善し、再現性よくリズムを発振する細胞の作製と測定条件を再検討した。 これまでは酪酸ナトリウムでK562細胞を分化させていたが、血清飢餓状態で酪酸ナトリウムを加えることで、より多くの細胞を休止期に移行させることができた。血清の代わりにウシ血清アルブミンやインスリン、トランスフェリン、セレンなどの微量元素を添加した無血清培地を用いることで、細胞の生存能を維持できるようになった。また、5%CO2と炭酸水素ナトリウムによる重炭酸緩衝系を大気圧下でHEPESによる緩衝系に置き換えることで、培地の酸性化を防ぎ、良好なリズムを得ることができた。 一方、これまでペルオキシレドキシン2のアクセプターとスルフィレドキシンのドナーはK562細胞に共遺伝子導入していたため、ドナーとアクセプターの両方を共発現した細胞に由来するBRETとドナーのみを発現した細胞に由来する発光が混在していた。そのため、ペルオキシレドキシン2のアクセプターとIRESの下流にスルフィレドキシンのドナーを発現するようにデザインしたバイシストロニックコンストラクトを作製した。このコンストラクトをK562細胞に遺伝子導入して得た安定発現株はBRETの発光がより明瞭に観察できた。 以上の研究から、再現性よくリズムを発振するモデル細胞の作製や測定条件を改良することができた。今後はこのモデル細胞を用いて、被験者の赤血球のリズムを測定する予定である。
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