研究課題/領域番号 |
17K00891
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研究機関 | 松本大学 |
研究代表者 |
山田 一哉 松本大学, 大学院 健康科学研究科, 教授 (20263238)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 時計遺伝子 / 転写因子 / インスリン / AICAR / 脂肪細胞 / 筋管細胞 / 膵β細胞 |
研究実績の概要 |
私どもは、ラット肝において、高炭水化物食摂食後に誘導される転写因子として、basic helix-loop-helix 型転写抑制因子であり、24時間を刻む時計遺伝子でもある SHARP-2 を同定した。SHARP-2は、同様の構造を有する SHARP-1 とともに、SHARP family を形成している。ラット肝やラット高分化型肝癌細胞株である H4IIE 細胞において、SHARP family 遺伝子の発現はインスリンにより誘導され、標的である糖新生系酵素の phosphoenolpyruvate carboxykinase (PEPCK) 遺伝子のプロモーター活性を低下させることから、SHARP family はインスリンによる血糖低下に関わる転写因子の一つであると考えている。また、脂肪細胞から分泌されるアディポネクチンや経口糖尿病治療薬であるメトフォルミンは、肝の5’-AMP-activated protein kinase (AMPK) を活性化し、PEPCK 遺伝子の転写を抑制する。AMPK の活性化剤である 5-aminoimidazole-carboxamide-1-β-riboside (AICAR) で H4IIE 細胞を処理すると、インスリンと同様、早期に一過性に SHARP-2 mRNA の発現が誘導されることも明らかにした。 本研究では、他のインスリン応答性組織である脂肪細胞や筋肉において、インスリンや AICAR により SHARP family 遺伝子の発現が調節されるかどうか、インスリン産生細胞である膵β細胞において、培養グルコース濃度の上昇に依存して、SHARP family 遺伝子の発現が調節されるかどうか、SHARP-2 と Sox6 の最小相互作用ドメインを解析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
インスリンや AICAR 処理を行ったマウス 3T3-L1 脂肪細胞やマウス C2C12 筋管細胞において、リアルタイム PCR 法を用いて、SHARPs 遺伝子の発現について検討した。その結果、脂肪細胞では、インスリンによりSHARP-2 遺伝子の発現が濃度依存的に誘導されること、および、AICAR によりSHARP family 遺伝子の発現が濃度依存的に誘導されることが明らかになった。一方、筋管細胞では、両処理は、SHARP family 遺伝子発現には影響しなかった。 膵β細胞株であるマウス MIN6β細胞の培養液中のグルコース濃度を 5 mM から 25 mM へと上昇させたところ、24時間で、SHARP-2 遺伝子の発現が誘導されることが明らかになった。また、興味深いことに、同様に24時間で、インスリン遺伝子の発現も誘導されることが明らかになった。また、yeast two-hybrid system を用いて、SHARP-2 との相互作用に必要な Sox6 のドメインを解析したところ、現在までに、201 から 362 までのアミノ酸配列であることが明らかになった。この領域には、Sox6 の転写活性に必要なグルタミンに富む配列が含まれていた。 今年度は、高騰している細胞培養に用いる牛胎児血清を確保するために一括購入を行ったため、動物実験に予算を回すことができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
H4IIE 細胞では、AICAR による SHARP family 遺伝子の発現誘導が生じること、うち SHARP-2 遺伝子の発現は、予想された AMPK 経路ではなく、phosphoinositide 3-kinase/ atypical protein kinase C lambda 経路を介することを明らかにしている。脂肪細胞での AICAR によるSHARP family 遺伝子の発現誘導が、AMPK 経路によるものか、肝臓と同様の経路によるものかについて明らかにするために、各種シグナル伝達分子の阻害剤を用いて検討する。また、H4IIE 細胞での AICAR による SHARP-1 遺伝子の発現誘導メカニズムは明らかでないため、同様に検討する。加えて、MIN6β細胞について、AICAR 処理により SHARP family 遺伝子の発現が変動するかどうかについて検討する。 SHARP-2 遺伝子のプロモーター領域を含むルシフェラーゼレポータープラスミドをMIN6β細胞にトランスフェクションし、グルコースに応答するDNA 配列を決定し、その結合タンパク質の解析を行う。ラットインスリン遺伝子のプロモーター活性に対する SHARP-2 と Sox6 の機能的相互作用を検討するために、インスリン遺伝子のプロモーター領域を含むルシフェラーゼレポータープラスミドと SHARP-2 や Sox6 の発現ベクターをMIN6β細胞にコトランスフェクションし、インスリン遺伝子の転写に対する作用を解析する。 SHARP-2 との相互作用に必要な最小ドメインをさらに絞り込むために、201 から 362 までのアミノ酸配列をさらに分割して検討する。 血糖低下作用が知られている食品成分を摂食させたマウスの膵臓、肝臓、筋肉、脂肪組織での SHARP family 遺伝子発現についても検討する。
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