私どもは,ラット肝において,高炭水化物食摂食後に誘導される転写因子として,basic helix-loop-helix 型転写抑制因子であり,24時間を刻む時計遺伝子でもある SHARP-2 を同定した。SHARP-2は,同様の構造を有する SHARP-1 とともに,SHARP family を形成している。ラット肝やラット高分化型肝癌細胞株である H4IIE 細胞において,SHARP family 遺伝子の発現はインスリンにより誘導され,標的である糖新生系酵素の phosphoenolpyruvate carboxykinase (PEPCK) 遺伝子のプロモーター活性を低下させることから,SHARP family はインスリンによる血糖低下に関わる転写因子の一つであると考えている。また,脂肪細胞から分泌されるアディポネクチンや経口糖尿病治療薬であるメトフォルミンは,肝の5’-AMP-activated protein kinase (AMPK) を活性化し,PEPCK 遺伝子の転写を抑制する。AMPK の活性化剤である 5-aminoimidazole-carboxamide-1-beta-riboside (AICAR) で H4IIE 細胞を処理すると,インスリンと同様,早期に一過性に SHARP-2 mRNA の発現が誘導されることも明らかにした。 本年度の研究では,肝臓で絶食やカロリー制限食摂食などのグルカゴン優位の際に活性化される長寿遺伝子サーチュイン(SIRT1)と摂食後のインスリン優位の際に発現が上昇する SHARP family 遺伝子の間で,どのような発現関係が認められるのか,換言するとインスリンが寿命の短縮に関与するかどうかについて検討した。
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