平成31年/令和元年度は、前年度の継続としてDHAの結合位置が異なるリン脂質の小腸における吸収代謝パターンの比較を行った。動物実験が適切に実施できる環境を整え、また投与サンプルについても条件検討を行った。投与する脂質量を減らし、溶媒を完全に除去するなどの作業工程を見直した後、動物への投与を行った。本年度は連携研究者によって脂肪酸置換により合成された1-DHA-PCならびに市販の精製2-DHA-PCを使用して乳化サンプルを調製し、リンパカニュレーションラットに投与した。投与後6 hまでのリンパ液中脂質をTLCならびにGCを用いて分画分析した。さらにそれぞれのリン脂質について酵素消化実験を行い、DHAの結合位置がホスホリパーゼの基質特異性に及ぼす影響を調べ、吸収性との関連を考察した。その結果、膵酵素による消化では、膵液中の主要な酵素であるホスホリパーゼA2の基質特異性と矛盾なく、どちらのPCからも優先的にsn-2位に結合している脂肪酸が遊離した。すなわち、1-DHA-PC消化時の方が、多くのリゾPC型DHA(DHA-LPC)が生成し、2-DHA-PCからはわずかにDHA-LPCが生じた。動物実験においては、DHAの総吸収量は1-DHA-PCでやや高かったものの有意差は見られず、主要な画分であるトリグリセリドとしての吸収も同様であった。一方、リン脂質としての吸収においては、1-DHA-PC投与時の方が2-DHA-PC投与時よりもリン脂質画分に分配されるDHA量が少ない傾向が見られたが、有意差はなかった。そこで、総吸収量に対する割合で比較したところ、リン脂質への分配は2-DHA-PC投与時に有意に高く、sn-2に結合したDHAの方がリン脂質に再合成されやすいこと、消化産物として生じるsn-1結合型のLPCは細胞内でさらに加水分解される可能性が高いことが示唆された。
|