消化管の上皮細胞には様々な内分泌細胞が散在し、管腔内の情報に従い、体内に各種ホルモンを分泌している。インスリンの分泌促進作用をもつGLP-1(glucagon like peptide-1)は、小腸遠位から大腸に散在するL細胞により分泌され血糖を制御する。一般にL細胞はグルコースや脂肪酸を感知し活性化するとされているが、肉加水分解のペプチドを感知しているという報告もある。ヒト大腸由来のGLP-1産生細胞株NCI-H716(L細胞)において、トウモロコシに含まれる難消化性タンパク質であるゼインが、L細胞のGLP-1発現をどのような細胞内シグナル伝達経路を介して誘導しているのかを検討した。 L細胞における肉加水分解産物への応答の場合、ERK1/2とp38MAPKの活性化が報告されているが、ゼイン添加ではこれらの活性化は認められなかった。一方、Wntシグナル構成分子であるβ-カテニンのタンパク質量がコントロールに比べ著明に増加した。 また、ヒトL細胞においてGSK3β阻害剤により、β-カテニンの蓄積を引き起こすと、GLP-1産生の指標であるpre-proglucagonのmRNAの発現が強く誘導されたトウモロコシ難消化性ゼインペプチドはヒト大腸由来のL細胞に作用し、細胞内のβ-カテニンの量を増加させることが明らかになった。L細胞において、β-カテニンの蓄積を介してGLP-1の発現を誘導していると考えられる。ゼインによるβ-カテニンを増加させる機序をさらに現在解析中であるが、細胞外分泌タンパク質Wntとの相互作用、cAMP/PKA経路の活性化によるβ-カテニンの増加、未知の受容体への作用などが考えられ、ゼインがL細胞においてGLP-1の発現を誘導する一連のメカニズムを明らかにする必要がある。
|