2011年3月に発生した東京電力福島第一原子力発電所事故により放出された放射性セシウムは、事故から10年以上経過した現在でも田畑土壌中に存在し、これが風評被害の原因となっている。汚染された土壌から放射性セシウムを除去することが困難な理由の一つとして、土壌中のバーミキュライト等の粘土鉱物への放射性セシウムの固着があげられる。しかし、田畑土壌の主な成分は黒ボク土であることから、黒ボク土への放射性セシウムの吸着や黒ボク土からの除染についても検討する必要がある。そこで、市販の黒ボク土およびバーミキュライトを137Cs水溶液に浸して放射性セシウムを吸着させ、模擬汚染土壌を作成した。それらを乾固させた後、KCl、RbClまたはCsCl水溶液を用いて137Csの抽出を試みた。除染後の土壌は、純水で1回または2回の洗浄を行った。その後、それぞれの土壌でカイワレダイコンを栽培し、収穫した葉と茎に含まれる137Cs を定量した。 CsCl水溶液を抽出剤として用いた土壌で栽培したカイワレダイコンは、残存した安定同位体のCsによる成長障害が認められた。また、カイワレダイコンが吸収した137Csは黒ボク土で栽培したもの方がバーミキュライトで栽培したものに比べてはるかに多く、黒ボク土に吸着した137Cs は安定同位体のCsイオンにより遊離されやすいことを示していた。また、Rbイオンも、黒ボク土の除染に対してはCsイオンと同じように抽出効果が確認できた。他方、Kイオンについては、除染効果はほとんど認められなかった。植物の生育への影響については、RbCl水溶液を抽出剤として用いた土壌でのカイワレダイコンの栽培試験では、外観上では生育障害が認められなかった。これらのことから、除染後の土壌が農作物の生育に与える影響を考慮すると、Rbイオンによる化学除染は実用的ではないかと考えている。
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