本研究では、食事摂取におけるシステイン量に着目し、それを原料とする生体内抗酸化物質グルタチオン(GSH)量への影響やそれを介する免疫系への影響についてマウスを被検体として飼育実験により検討を始めた。しかしながら、この3年間は新型コロナ禍によりマウス飼育が難しくなったため、より省力化できる培養細胞実験により検討できる内容にシフトし、GSH産生系に影響のある成分に関する研究に切り替えた。昨年度の研究で、ビタミンAが、これまで検討してきたRAW264細胞に加え、別の細胞バンクより入手したRAW264.7細胞、同じく単球・マクロファージ系のJ774.1細胞やTHP-1細胞において細胞内抗酸化物質GSH量を増加させることを見出した。今年度はその中で、ヒト由来細胞であるTHP-1細胞に絞り、試薬ジクロロフルオレシン・ジアセテート(DCFH2DA)を用いて細胞内の酸化還元状態をフローサイトメトリー法により測定する実験を行った。この試薬が細胞内に浸透すると細胞内のエステラーゼ活性によりアセチル基が除去されジクロロフルオレシン(DCFH2)となって疎水度が低下することから細胞外へ出られなくなり、細胞内の活性酸素等によりジクロロフルオレセイン(DCF)へと酸化されると光を発する。従って、フローサイトメトリーにより各細胞のDCF蛍光強度を測定することで、それぞれの細胞の相対的酸化度が評価できる。この実験により、ビタミンA(レチノール)やプロビタミンA(β-カロテン)を培地に添加した場合には、THP-1細胞に対する抗酸化効果が見られることが判明した。これは、これらの物質添加により、THP-1細胞内でGSH量が増加することと符合する。一方で、細胞内GHS量を増加させないレチノイン酸を添加した場合には、細胞蛍光への影響も検出されなかったことから、レチノイン酸には抗酸化効果がない事が明らかとなった。
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