研究課題/領域番号 |
17K00927
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研究機関 | 椙山女学園大学 |
研究代表者 |
佐久間 理英 椙山女学園大学, 生活科学部, 講師 (10551749)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 血清リン濃度 / リン / 高脂質食 |
研究実績の概要 |
高リン血症は、慢性腎臓病 (CKD) 患者および健常者において心血管疾患の発症および死亡リスクを上昇させる。CKD患者の食事療法では、タンパク質制限に伴い炭水化物および脂質摂取の増加が推奨されているが、適切な摂取割合は不明である。また近年、食の欧米化により脂質 (特に飽和脂肪酸) の摂取量が増大している。高脂質食摂取がカルシウム代謝に影響を及ぼすとの報告があるため、リン代謝動態にも影響する可能性がある。そこで炭水化物と脂質の割合の異なる飼料をラットに摂取させ、リン代謝に及ぼす影響を検討した。 8週齢の雄性SDラットを、高炭水化物食群 (HC群)、高脂質食群 (HF群)、高飽和脂肪酸食群 (HF-SFA群) の3群に分け8週間飼育し、各飼料の短期的および長期的な摂取がリンおよびカルシウム出納に及ぼす影響を評価した。また、8週間の飼育後における血液生化学検査値および腎臓、腸管のリン輸送関連遺伝子の発現量を評価した。 短期的摂取において、糞中リン排泄量は、HF-SFA群がHF群に比して低値を示し、尿中リン排泄量は、HF-SFA群がHC群およびHF群に比して有意に高値を示し、長期的摂取においても同様の傾向を示した。血清1,25(OH)2Dおよび副甲状腺ホルモン濃度は、HC群、HF群、HF-SFA群の順で段階的に高値を示す傾向が見られた。血清線維芽細胞増殖因子23濃度は、高脂肪食の2群において、HC群に比して有意に高値を示した。リン輸送関連遺伝子mRNA発現量は、腎臓および空腸において各群間で有意な差は見られなかったが、十二指腸において、NaPi-2b mRNA発現量がHF群においてHC群に比して、Pit-1 mRNA発現量が高脂質食の2群においてHC群に比して有意に高値を示した。 高脂質食、特に高飽和脂肪酸食は高炭水化物食に比して、腸管におけるリン吸収を増大させることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、健常な動物 (ラット) において糖質・脂質の比率および脂質の質 (脂肪酸の種類) がリン出納およびリン代謝指標に及ぼす影響を評価することが出来たため、概ね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
「食事」は複数の栄養素を同時に摂取するため、特定の栄養素が生体に及ぼす影響を評価するには、他の栄養を同時に摂取した際の複合的な評価が必要である。加えて食事摂取リズムや環境も栄養素の利用効率に影響を及ぼすため、これらの要因を総合的に評価しなければならない。よって今後は、健常者を対象に、①空腹時採血 (血清リン濃度、血清リン代謝指標濃度などを測定)、②簡易型自記式食事歴訪質問票 (約30種類の栄養素および50種類の食品について、日常的な摂取量を算出)、③食習慣アンケート (食事摂取時刻や食習慣を調査)、④体組成測定 (身長、体重、体脂肪率などを測定) を行い、リンおよび他の栄養素の摂取比率・量、食習慣と血清リン濃度およびリン代謝指標との関連性を評価することで、食事としてリンを摂取した際における生体内リン代謝動態への影響を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
血液・尿測定キットや解析試薬が予定金額より安価に購入できたため、次年度使用額が生じた。次年度はヒト試験を予定しているが、対象者数を予定人数より増やすことで、血清リン濃度およびリン代謝指標と食習慣の関連性を、より詳細に解析する。そのため次年度使用額は、対象者への謝金および血液検査委託費用として使用する。
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