研究課題/領域番号 |
17K00930
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研究機関 | 福岡女子大学 |
研究代表者 |
中村 強 福岡女子大学, 国際文理学部, 教授 (30581912)
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研究分担者 |
飯田 綾香 神奈川県立保健福祉大学, 保健福祉学部, 助教 (70739169)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | NASH / STAMマウス / シェファードシャック / 血清アミロイドA蛋白 / 炎症マーカー / 腸内細菌叢 / 予防法と治療法 |
研究実績の概要 |
【背景】NASHの予防法や治療法の確立を目指した病態モデル(STAMマウス)の用いた基礎研究に取り組んでいる。しかし、ここ数年間は、病態モデルの発症が安定していないため、NASHに関する基礎的検討が進捗していない状況にあった。すなわち、今後の研究の継続のためには安定したモデルの作製方法の検討が必要であると判断している。また、これまでの先行研究により、肝臓中のアミロイド蛋白の発現量や腸内細菌叢の変化がNASHの発症にて大きく変動する可能性を見出している。しかし、先に示したように安定化したモデルを用いて、その変動の程度を再検討する必要があった。 【目的】1.飼育環境の改善がSTAMマウスの発症の安定化に必要であると判断した。加えて、安定的な作製法が確認できれば、2.血清アミロイドAを測定し、新規な炎症バイオマーカーとしての有用性を検討するとともに、健常マウスを対照とした腸内細菌叢への影響を検討することとした。 【方法】シェファードシャック(Shepherd Shack:SS)をケージ内に入れ、マウスのケージ内を最適な環境改善に保つとともに、この環境下でNASH病態モデルの作製を試みた。発症状況が改善することが確認された際には、ELISA法にて血清中のアミロイドA (SAA)を測定するとともに、腸内細菌叢は盲腸内容物を用いて細菌メタゲノム解析を行うこととした。 【結果・考察】SSの使用によりNASH発症は安定化することが確認できた。また、STAM群のSAAは極めて高い値を示した。腸内細菌叢は健常マウスと比べ、大きく変動することが観察された。以上のことから、SSの使用はNASH病態モデルの作製に極めて有用であること、炎症診断のマーカーとして、SAAや腸内細菌叢の変動は極めて有用であると判断した。今後は、これらのマーカーを用いながら、予防法/治療法の基礎的な検討を実施していきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該科研費の研究を実施する際に解決すべき課題として、使用する病態モデルの発症の安定化を解決する必要がある。そこで、初年度である本年度はこれを最重要課題として検討した。病態モデルの作製には発生直後の仔マウスを使用しており、この仔マウスを薬物処理し、次いで6週齢に達したのち、NASHもしくはNAFLDの病態モデルとして使用している。 これまでの検討では、仔マウスから使用する6週齢に達するまでの死亡率は、ここ数年間で平均30%以上にも達し、また生存した場合でも仔マウスの成長(体重)に大きな個体差がみられた。 そこで、シェファードシャックを用い、飼育環境を改善することを試みた。その結果、死亡率は4%にまで改善すること、また肝機能や肝臓脂肪などの基礎データからも、NASH病態(肝臓障害)を端的に表すことが認められたことから、これまでの作製法に加え、SSの使用は極めて有用な方法であると結論した。 また、病態モデルの作製が安定化されたことから、診断マーカーとして、血清アミロイド蛋白及び腸内細菌叢の変動を調べた。その結果、対照である健常マウスに比べ、血清アミロイド蛋白及び腸内細菌叢に大きな変動がみられ、これも有用な評価法であることが確認できた。 以上、当初の計画に従って検討を実施し、また改善結果も得たことから「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、シェファードシャックを用い、病態モデル(STAMマウス)を作製し、予防法や治療法の検討を継続して実施していく。加えて、科研費研究の課題は以下の4点を挙げていることから、これを実施する。 すなわち、A)他の病態モデル(肥満高脂血症マウス:TSODマウス)のNASH病態動物としての有用性を検討する。B)NASHの病態進展ならびに腸内細菌叢の変化との関連性、さらにはC)腸内細菌叢の改善が肝臓炎症などに好ましい影響を与えるとの可能性をそれぞれ探索研究する。また、D)腸内細菌叢の改善が短鎖脂肪酸量や生体免疫能に及ぼす影響も観察する。最後に予防効果に加えて治療効果も確認したうえで機能性食品や医薬品などの応用を目指し、動物での安全性試験や有効性試験にてヒト臨床への可能性を検証する。 このうち、本研究と並行し、TSODマウスの有用性の確認は実施中であり、加えて腸内細菌叢を改善する効果のある物質を選択し、腸内菌叢の改善と発症との関連性を検証する。なお、腸内細菌叢の改善は短鎖脂肪酸もしくはバクテリアルトランスロオケーシュンとの関連、更には水素(H2)産生との関連が示唆されていることから、この面での検討する予定であり、次年度以降に実施したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
論文作成中であり、アクセプトされた後の印刷費用として使用する予定である。現在は、まだ作成中であり、そのためその費用は翌年度分として計上することにした。
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