研究課題/領域番号 |
17K00940
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研究機関 | 関西医科大学 |
研究代表者 |
高屋 淳二 関西医科大学, 医学部, 非常勤講師 (80247923)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 小児貧困 / 小児肥満 / 痩せ / 生活習慣病 / アディポサイトカイン / インスリン抵抗性 / カルシウム |
研究実績の概要 |
[目的]子どもの相対的貧困は増加しており、子どもの心身発育に影響を及ぼしている。貧困が生活環境や体格に与える実態を調査し、子どもの貧困対策に必要な支援を目指す。 [方法]東大阪市の小学校5年生と中学2年生の各1,000名とその保護者に郵送によるアンケート調査を実施した。調査期間は平成29年8月から同9月。世帯所得額から等価可処分所得を算出し、困窮程度を4つの層に分類して調査項目を検討した。体格はBMIおよび身長の標準体重をもとに評価した(20%以上を肥満傾向、20%以下を痩せと定義)。 [結果]回収率は31.3%。等価可処分所得中央値以上49%、困窮度:高度13%、中等度7%、低度31%。肥満傾向は男(8.4%)、女(3.9%)、痩せは男(2.2%)女(7.9%)と性差を認めた。所得中央値以下の群で、女子のみ肥満が多かった。朝食の欠食は、肥満と相関を認めなかった。睡眠時間が7時間未満の群は、9時間以上の群に比して男女共BMIが高かった。帰宅後の勉強時間が1時間未満の群は学年による差はないが、困窮群と肥満傾向群で有意に多かった。貧困群では、通塾率、書籍、運動用具、自分の部屋の所持率は低いが、携帯電話、スマホ、ゲーム機の所持率には群間に差がなかった。肥満群では書籍、運動用具、自分の部屋の所持率は低かった。 [結論] 貧困家庭でも携帯電話やスマホ、ゲーム機は与えられているが、通塾率は低下し、帰宅後の勉強時間も短く、教育格差が生じている。 また、前年度から進行していた研究で、大阪市の学童・生徒の健康診断における肥満と痩せの分布が24区にバラツキがあり、貧困と関連があるというデータを英文にまとめ、日本小児科学会の英文誌 Pediatric International 2018, 60:743-749 に発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大阪市の学童・生徒の健康診断における肥満と痩せの分布が24区にバラツキがあり、貧困と関連があるというデータを英文にまとめ、日本小児科学会の英文誌 Pediatric International 2018, 60:743-749 "Regional disparities in obesity/emaciation and income in schoolchildren in Osaka City" として発表した。 東大阪市の子どもすこやか部 子ども家庭課の協力を得て、小学校5年生と中学2年生の各1,000名とその保護者に郵送によるアンケート調査を実施し、その結果を解析した。肥満傾向は男(8.4%)、女(3.9%)、痩せは男(2.2%)女(7.9%)と性差を認めた。所得中央値以下の群で、女子のみ肥満が多かった。朝食の欠食は、肥満と相関を認めなかった。睡眠時間が7時間未満の群は、9時間以上の群に比して男女共BMIが高かった。帰宅後の勉強時間が1時間未満の群は学年による差はないが、困窮群と肥満傾向群で有意に多かった。貧困家庭でも携帯電話やスマホ、ゲーム機は与えられているが、通塾率は低下し、帰宅後の勉強時間も短く、教育格差が生じていることが明らかになった。 本内容を「貧困が児童生徒の生活環境・体格に与える影響―東大阪市アンケート実態調査」の演題で、2019年3月9日、第16回日本小児栄養研究会(大阪医科大学)のシンポジウムとして発表した。また同3月17日、第32回近畿小児科学会(京都)で口頭発表した。4月19日には第122回日本小児科学会学術集会(金沢)で口頭発表する予定である。この研究結果を、すでに英文で論文としてまとめ、投稿中である。 食事聞き取り調査とともに、食事のカメラ撮影記録による調査を行い、写真による食事内容の集計を栄養士とともに、今後検討する準備を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の予定として、大阪市の教育委員会の協力のもと、大阪府医師会学校医部会・生活習慣病対策委員会が学校医向けに作成した教育資材「小児の肥満とメタボリックシンドローム」「子どもたちのための食育」を有効に活用し、経時的な改善を評価する。パイロットスタディで得られた、やせ児や肥満児が多い地域と少ない地域においてモデル校を選定し、研究参加に同意の得られた児童・生徒を対象に、アンケートによる意識調査を実施する。 またボランティアの児童・生徒を募って、出生体重や身長と経時的なデータを集積する。やせ児と肥満児を出生時の体格と家庭の社会経済状況から俯瞰する。地域基幹病院を受診した対象者には、上腕内皮細胞機能評価を生理検査と血清の一酸化窒素代謝物質の測定を組み合わせて行う。内皮障害発症メカニズムを明らかにすることで、合併症の進展予防策を探求する。また、食欲・食行動と生化学的パラメータであるグレリン、レプチンとの相関を検討する。冷凍保存した血清を使用して、新たな肥満やメタボリックシンドロームの予知因子となるマーカーを検索する。 今後の研究の推進方策としては、①協力の得られた学校の児童・生徒に、食事の嗜好、普段の食事記録を3日間アンケート形式で答えてもらう。食事の撮影を依頼し、写真を印刷または、配布したmicro SDカードにデータを入れて、郵便で返送していただく。②写真をもとに、栄養士が解析ツールから摂取カルシウムやマグネシウムを中心にミネラル量や脂質、蛋白質、カロリー量を算出する。これまで確立されたスケールを用いてカルシウムやマグネシウム摂取量を計測する。得られた食事バランスのデータと児童・生徒の体格、運動能力をあわせて比較検討する。
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