研究課題/領域番号 |
17K00953
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研究機関 | 国立研究開発法人水産研究・教育機構 |
研究代表者 |
臼井 将勝 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 水産大学校, 准教授 (50399656)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 甲殻類アレルギー / トロポミオシン / ウオノエ |
研究実績の概要 |
甲殻類アレルギー主要アレルゲンのトロポミオシンは無脊椎動物において高い相同性を示し,広範囲に共通する汎アレルゲンとして報告されている。魚類に寄生するウオノエ科甲殻類もエビ類やカニ類と相同性の高いアレルゲン(トロポミオシン)を有していると考えられ,甲殻類アレルギー患者が摂食した場合はアレルギー発症リスクを伴うことが予想される。そこで本年度は,ウオノエに寄生されたキダイの調理品を摂食した場合の甲殻類アレルギーリスクについて検討した。甲殻類アレルギー患者がウオノエを積極的に摂取することは考えにくいため,潮汁などの調理においてウオノエが混入した場合を想定してリスク評価を行った。 ウオノエ寄生状態で加熱調理したキダイ,ウオノエを除去したのちに加熱調理したキダイ,ウオノエ非寄生キダイの加熱調理品から筋肉および煮汁を分取し実験試料とした。これら試料中に含まれるエビトロポミオシン様タンパク質濃度を市販定量キットを使用して求め,同濃度をもとに調理品摂食時のアレルゲン総摂取量を算出しリスク評価を行った。 その結果,ウオノエ寄生調理キダイの筋肉と煮汁,およびウオノエ虫体からの抽出液において,エビトロポミオシン様タンパク質の濃度が1.000 ppmを上回った。各濃度は寄生調理キダイの筋肉で2.202 ± 1.950 µg/g,同煮汁では2.293 ± 1.096 µg/g,同ウオノエ虫体では6669.680 ± 1783.422 µg/gであった。ウオノエ寄生キダイの潮汁一食(200 mL)を摂食した場合では,約500 µgのエビトロポミオシン様タンパク質を摂取することが判明した。 加えて,検出されたエビトロポミオシン様タンパク質のウエスタンブロット解析を行った結果,同タンパク質の分子量は約35 kDaであり一般的なエビトロポミオシンと同様であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り,初年度において魚類口腔内に寄生する甲殻類であるウオノエについて,抗エビトロポミオシン抗体と強い交叉反応性を示す分子量約37kDaのタンパク質,すなわちエビトロポミオシン様タンパク質の存在を確認できた。また,魚種やサイズが変わっても適用できる調理,抽出および定量の方法が確立できた。その結果,同タンパク質がウオノエに寄生された魚の調理品において,加熱調理後も検出され,一般的な摂取量であってもアレルギー患者においては避けるべきであることを具体的な濃度や総摂取量と共に示すことができた。 当初はマダイ寄生のタイノエ(Rhexanella verrucosa)を主な研究対象と設定していたが、漁獲量や寄生頻度を考慮してキダイとこれに寄生するウオノエ(Ceratothoa sp.)に変更したことで試料の確保が容易にになり高精度の定量値が得られた。また,ウオノエ試料を十分に確保できたことにより、ウオノエトロポミオシン(エビトロポミオシン様タンパク質)と予想される分子の分離を試み、少量ながら硫安分画やイオン交換クロマトグラフィーによって精製できている。 これらの状況に鑑みて、本研究は順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は,食用昆虫や深海生物など食経験の乏しいもので近年食用化が進みつつあるものを対象として研究を行う。 昆虫は国内の一部地域では伝統的であるがアレルギーに関する認識は希薄である。他方で、昆虫は分子系統樹では汎甲殻類に分類されるため、甲殻類アレルギーとの交叉性が懸念される。深海に生息する甲殻類のグソクムシを加工した煎餅やフジツボ,カメノテなどの鞘甲亜網の食用拡大,アミやオキアミ類の加工食品への添加など,流通や情報の発達や未利用資源利用による新規食用甲殻類とも呼べるものも増加している。これらについては,アレルギー表示義務化はもちろん,エビアレルギーとの交叉性調査もなされていない。よって,これら食材・加工品における甲殻類アレルギーリスク評価をウオノエと同様に行う。 具体的には市販される調理品や加工品を対象とし,食用昆虫はハチの幼虫,イナゴ,カイコ(カイコガの蛹),トビゲラの幼虫を、深海生物はグソクムシ(煎餅)を予定している。加えて、カメノテ・フジツボは生鮮品および調理品を,アミやオキアミは発酵食品を用いて,タイノエと同様の方法でエビトロポミオシン様タンパク質の確認および定量値によるリスク評価を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
29年度で得られた成果の論文投稿準備に遅れが生じたため予定していた英文校正費用約4万円が未執行となった。現在取りまとめ中のデータを論文化し投稿するための費用として30年度に使用する計画である。
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