理科教育学研究では、心理学研究で明らかにされた子供たちの発達段階と教育学研究で重視されている学習内容の適時性に関して本格的な研究が行われている。近年はラーニング・プログレションズ(LPs)に関する研究が組織的に行われている。 LPsの中では、理科の学習内容について、学習者がどのような中間的な考え方を経て、科学的に正しい概念の獲得へ到達するのかが記述されている。このように、LPsでは学習者の思考過程が明文化され、理解の発達が経時的に示されている。このような特徴を持つLPs は、日本の学習指導要領との親和性が高く、日本における理科の学習内容の一貫性や系統性を吟味する際に、貴重な情報を提供している。 本年度は、LPsに関する最新の研究知見をもとに、物理概念や化学概念の両者に関わる「光の概念」に関するLPs 段階を開発した。実践研究としては、このLPs段階を基盤とした教授サイクルを理科授業の中で実施し、光の学習内容に対する中学1年生の理解のLP s段階を明らかにした。本実践では、凸レンズの働きと結像について、基礎的な内容を理解している生徒が44% しかおらず、また、習得が期待されているレベルに到達した生徒でも、反射、物の見えかた、屈折と比べて最も低かったことが確認できた。このような結果を踏まえ、凸レンズの働きと結像については、基礎的な知識を身につけられていない生徒が多く、中学2 年生以降で学習した方がより適切な内容と結論づけた。以上のことは、本研究で作成した「光の概念」の教授のグランドデザインの中にも加えた。 ところで、LPsは未だ学習者の思考をたどる仮説的な説明であるが故に、今後のLPsに基づく概念研究の中では、先行研究で指摘されている「学習の領域固有性」「学習の適時性」について一層の研究が必要となる。
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