研究課題
空はいつでも見ることができる身近な自然の一つであるが、児童生徒、教員ともに、理科の中で最も苦手意識や理解の困難さを感じるのは、天文・気象分野とその観察・実験とされている。本研究は、その天文・気象分野について、自らの体験を通した実感を伴った理解を図ることを目的とし、学校等学習の現場で活用できる遠隔操作可能な小型全天カメラや気象観測装置を開発し、教材・教育プログラムの作成・授業実践と評価を行なうものである。特に近年、比較的安価に高性能の広視野デジタルカメラが民生品で入手できるようになり、様々な研究現場で利用されているが、教育現場ではあまり活用されていない。そこで、従来よりも低コストかつ小型・高性能の全天カメラを開発/作成し、活用した天文分野/気象分野の教材や教育手法の確立を目指す。研究計画当初は、低コスト・小型・汎用的な全天カメラシステム教材を開発すべく、360°撮影可能な市販小型カメラであるTheta-Sと、Python言語プログラムと超小型PC “Raspberry Pi”を用いて制御する撮影装置を最初に開発したが、連続撮影が1日以下であることや熱暴走などの課題が見つかった。そこで、今年度は新たに超小型PC“Raspberry Pi”専用のカメラモジュールと、温度湿度などの気象センサーを組み合わせた装置の開発と原案の作成に着手した。”Rasberry Pi”は、雑誌「子供の科学」で小中学生向けのプログラミング学習教材にも取り入れられている。児童生徒自身が、安価で実用的な装置作成のめどが立った場合には、児童生徒が製作に携わることで「ものづくり」の教材にもなりうるため、2020年度に改訂されたプログラミング教育への応用も視野に入れ、安定して使いやすいものを目指す。
4: 遅れている
前年度までに、デジタル一眼カメラと円周魚眼レンズを組み合わせ、地上の風景と共に暗い星まで撮影することにより、児童生徒の見慣れた風景を基準として天体の動きを実感して理解できる全天スカイモニターを開発・製作したが、一台にかかる製作費用が高額となることが分かった。そこで、低コスト・小型・汎用的な全天カメラシステム教材を開発すべく、360°撮影可能な市販小型カメラであるTheta-Sを用いて装置をPython言語プログラムで制御し、温度センサーとファンを組み合わせ、防塵ボックスとアクリルドーム等に入れて屋外に固定する方法で開発/製作を行なったが、試験運用の段階で、根幹となるカメラが、防塵ボックスなどの密閉空間における熱暴走の影響で連続撮影が難しいという問題点が見つかり、様々な対応方法を検討した。その後、さらに安価で扱いやすい“Raspberry Pi”と連動するカメラモジュールを用いた手法の検討を重ねた。今年度は、実際に、いくつかのカメラレンズと、温度・湿度・気圧などの測定も同時に行えるようにセンサーを組み込む改良を施した、全天カメラおよび気象観測装置について複数の試作を進めた。特に、気象観測装置については、本装置で得られた観測データと、近くの気象台などの同時刻の観測データとの比較から、観測の信頼性や誤差の検証を行ない、使用できるレベルであることがわかった。両者を組み合わせた安定した運用がまだ見込めていないが、気象観測装置については天体望遠鏡に装填して観測の可否判断に使用できるようになった。加えて、学校現場など無線のインターネットや電源等が必ずしも利用できない環境下でも動作するような工夫を施した装置、および、降水・風速などの気象観測装置について検討と試作を行なった。
学校現場などに活用できることを目的として、低コストで、小型・汎用的な全天カメラシステム教材の開発・製作を進める。まずは市販のカメラや超小型PC “Raspberry Pi”を用いた装置制御の方針で開発と製作を進めてきたが、現在のところまだ安定した運用には至っていない。学校現場での実用性や利便性なども考慮した観測装置の開発を進める。教育利用が主目的となるため、データの精度と使いやすさのトレードオフの検討も行なう。また、降水・風速計については超小型PC”Rasberry Pi"との組み合わせはできたが、自動測定に課題があるため、実現可能性も含めた製作の検討を進め、天文・気象分野の観測装置教材の実現に向けてつとめる。加えて、児童生徒の理解を深めるためにはどのようなものが必要とされるか、理解度の向上につながるためには何が有用か、などについて、、教職大学院生、教育実習を行う教育学部生や現職教員、科学館職員らと協力して、天文・気象分野について実感を伴った理解が深まるような教材や教育方法についても、引き続き調査を進める。
昨年度末(3月)に、開発製作を主に担っていた分担者が急逝したため、全体的に装置開発・製作に遅延が生じている。現在は、分担者がいないため、装置開発の検討や製作に時間がかかり、国際学会の発表にはまだ至らず、年間計画の予定が変更となった。加えて、他の競争的資金を獲得できたため、当科研費の使用を抑制することができた。以上の理由により、繰越金が発生した。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (23件) (うち国際学会 2件) 図書 (3件) 備考 (1件)
The Astrophysical Journal
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巻: 71 ページ: 47~61
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http://www.astron.sci.edu.saitama-u.ac.jp/index.html