研究課題/領域番号 |
17K00960
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
大朝 由美子 埼玉大学, 教育学部, 准教授 (10397820)
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研究分担者 |
大浜 晶生 名古屋大学, 理学研究科, 研究員 (30758751) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 天文教育 / 教材 / 全天カメラ / 気象 |
研究実績の概要 |
空は、日ごろ目にする身近な自然の一つであり、特に天文分野の学習は、児童・生徒の興味・関心度合は比較的高い。しかし、必ずしも学習内容の理解度が高いとは言えない。これは、学校現場で天文分野の観察・実験があまり実施されていないことが一因である。近年では、気象分野の観察・実験の実施も少なくなっている傾向がみられる。そこで、自身の体験を通して、天文分野において天体の動きなどの実感を伴った学習から空間認識能力についての育成を図ること、気象分野における空の動きと天気の変化の理解を深めることを目的として、学校等学習の現場で活用できる小型全天カメラ・気象装置を開発し、教材・教育プログラムの作成・授業実践と評価を行う。 中学校学習指導要領には「身近な天体の観察,実験などを行い,その観察記録や資料などを基に,地球の運動や太陽系の天体とその運動の様子を関連付けて理解させるとともに、それらの観察,実験などに関する技能を身に付けさせ,思考力,判断力,表現力等を育成することが主なねらいである」及び、「身近な気象の観察,実験などを行い,その観測記録や資料を基に,気象要素と天気の変化の関係に着目しながら,天気の変化や日本の天気の特徴を,大気中の水の状態変化や大気の動きと関連付けて理解させる」とあるが、 ここ2年の新型コロナウイルス禍の影響で、観察・実験は難しくなっているため、あまり進められていない。 実際に、3年以上前に中学を卒業した現在の大学生を対象とした調査を行った結果、星座早見盤や百葉箱を使ったことも見たこともない学生が近年少しずつ増えてきていることがわかった。 加えて、現在の社会状況を鑑みて、インターネットを活用した教育プログラムの検討や開発を進め、本学が所有するSaCRA望遠鏡や市販の小型望遠鏡の扱い方や、それらを用いたインターネット観望会や宇宙教室を、学内外の児童生徒、学生、一般市民らを対象に実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
研究計画当初は、デジタル一眼カメラと円周魚眼レンズを組み合わせ、風景と暗い星まで撮影して、児童生徒の見慣れた風景を基準として天体の動きを実感して理解できる全天スカイモニターを開発・製作したが、一台にかかる製作費用が高額となることが分かった。次に、低価格で小型の全天カメラシステム教材を開発すべく、360度撮影可能な市販小型カメラを用いて装置をPython言語プログラムで制御し、温度センサーとファンを組み合わせ、防塵ボックスとアクリルドーム等に入れて屋外に固定する方法で開発/製作を行なったが、試験運用の段階で、密閉空間においてはカメラの熱暴走などの影響で連続撮影が難しいという問題点が見つかった。その後、様々な対応方法を検討し、解像度は悪化するが、さらに安価で開発が可能な超小型PC “Raspberry Pi”と連動するカメラモジュールを用いた手法を検討した。“Raspberry Pi”は、プログラミングや制御など様々な場面における学習に利用でき、小中高校の教育現場でも少しずつ利用され、将来的には児童生徒が製作に携わることで「ものづくり」の教材にもなりうる。汎用性や気象分野での教材も鑑み、温度センサー、湿度センサーなども組み合わせており、天文・気象両分野での活躍が期待される。まず試作で開発したRasberryPiの気象観測装置は、SaCRA望遠鏡と連動して、温度・湿度などのデータの児童記録が可能なことが確認され、現在、天体観測時の気象データ記録などに活用されている。 一方、学校現場で簡単に活用できる全天カメラと連動した気象観測装置としての製作はまだ十分でない。また、上記の装置は学内の安定した環境での運用であり、コロナ禍のため実際の学校現場などでの運用はできていない。 他方、インターネットによるリアルタイム配信などでの教室や観望会などの教育プログラムは複数回実施できた。
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今後の研究の推進方策 |
学校現場などで活用できることを目的として、低価格・小型・汎用的な全天カメラシステム教材の開発・製作を進めてきたが、社会状況が難しいため、まだ安定した運用に至っていない。特に、学校など大学とは全く違う制限の伴う環境下での試験運用や評価などのフィードバックが必要であるにもかかわらず、非常に厳しい状況である。 そこで、教員養成の学部生や院生、現職教員、科学館職員らと協力して引き続き、天文分野について実感を伴って体系的な理解が深まるような教材や教育方法について、調査を進めていく。 他方、フィールドワークや屋外での体験が難しい状況を鑑み、実際の体験には及ばないが、児童生徒が天体観測を模擬体験するという教育プログラムを検討し、小型望遠鏡の扱い方やそれによる太陽の観測方法を説明した動画や、埼玉大学のSaCRA望遠鏡の動く様子、我々が開発した高感度撮像装置などを搭載して観測をする様子などの動画を作成した。 また、COVID-19の影響で、遠方の施設を訪れにくい児童生徒らのために、ZOOM配信によるリアルタイム双方向でのインターネット観望会による天体観望体験プログラムを進めている。実際に現職教員や教職大学院生らの調査を進め、天文分野の学習での活用に必要な動画教材やインターネット教材の開発も検討して進めていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究分担者の突然の逝去、及び、COVID-19の感染悪化状況による社会状況の変化により、学内での試験運用や評価は進みつつあるものの、全体的に装置開発・製作および、運用に遅延が生じている。特に、本研究で必要となる学校現場などでの試験運用などができない状況であること、学校等への出張も厳しく、学校での運用を経たフィードバックや調査等が難しい状況であること等から、年間計画の予定が変更となった。 以上の理由により、繰越金が発生した。 次年度も、COVID-19の影響による社会状況は深刻であると予想される。インターネットを活用した教材のための物品および消耗品や、天文台・科学館などへの出張に充当する予定である。
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