研究課題
星空は、花や虫、動物等とともに日ごろ目にする身近な自然の一つであり、小学生にとって、宇宙・天文への興味・関心は高い。しかし、必ずしも学習内容の理解度が高いとは言えない。これは、学校現場で天文分野の観察・実験があまり実施されていないことが一因である。一方、中高の生徒にとっては、天文分野は理科の中で最も苦手意識や理解の困難さを感じる分野となっている。特に教員にとって、天文・気象分野とその観察・実験は苦手意識に加えて、授業中での実施や演示がしにくいという点から敬遠される傾向にある。本研究は、自らの体験を通して、天文分野における実感を伴った深い学びになることを目的とし、学校などの学習現場で活用できる遠隔操作可能な小型全天カメラや気象観測装置の開発や、天文教育の教材や教育プログラムの作成・授業実践などを行なうものである。従来よりも低コストかつ小型・高性能の全天カメラを開発及び作成し、活用した天文分野/気象分野の教材や教育手法の確立を目指し、全天カメラシステム教材の開発・作成を行なった。しかし、試作段階の途中で、新型コロナウイルスの感染拡大から、さらなる開発・作成や学校現場での動作試験が難しくなった。実際、新型コロナウイルス禍の影響で、学校現場における観察実験は、数や規模が縮小され最低限の状況となった。そこで、計画当初の実験と少し方向性は異なるが、オンラインの状況下でも実施可能であるものであり、天文教育の観点から、高校生・および教員養成系の大学生を対象とした、プラネタリウム番組制作・発表を通した教育実践を行なった。天文学を自ら積極的・主体的・対話的に深く学ぶことで、わかりやすく・楽しく伝える表現力や学びに向かう力を涵養するのが目的である。2年間の実施の試みと実際に取り組んだ生徒・学生のアンケート結果から、実際に天文学・星空への興味や理解がさらに向上したことがわかった。
3: やや遅れている
本研究の計画当初は、低コスト・小型・汎用的な全天カメラシステム教材を開発すべく、360°撮影可能な市販小型カメラであるTheta-Sと超小型PC “Raspberry Pi”を制御する撮影装置を開発したが熱暴走などの問題が浮上し、それらを解決すべく、超小型PC“Raspberry Pi”専用のカメラモジュールと、温度湿度などの気象センサーを組み合わせた装置の開発・作成を行なった。気象分野の教材も考慮し、専用モジュールである温度センサー、湿度センサーなども組み合わせた小型の気象観測装置を開発・作成した。この気象観測装置は、SaCRA望遠鏡と連動して、温度・湿度などのデータの児童記録が可能なことが確認され、現在、天体観測時の気象データ記録などに活用されている。一方、学校現場で簡単に活用できる全天カメラと連動した気象観測装置としての開発製作は試作段階であり、大学の安定した環境での運用での運用はできているが、その後の新型コロナウイルスの感染拡大のため実際の学校現場などでの実験ができない状況にあった。そこで、2020年後半から、インターネットによるリアルタイム配信などでの教室や観望会などの教育プログラムに取り組んだ。しかし生徒自身の主体的な学びとは言えない。そこで2021年からは、高校生・教員養成系の大学生を対象とした、プラネタリウム番組制作・発表を通した教育実践を実施した。各々の興味関心をもとに自由にテーマを設定し、調査・企画や番組構成・演出などの制作、発表を行なった。観覧対象も番組構成も多岐にわたり、多様な学習となった。本実践を通して、天文分野に対する知識や理解だけでなく、天文や星空への興味・意識も向上し、伝える力や自ら学びに向かう力の習得傾向が見られた。また、チームでの取り組みから協働する力が育まれ、主体的・対話的で深い学びの一助となっていると考えられる。
インターネットなどを通じて様々な天体画像がすぐに入手できることから、宇宙についての興味・関心の度合いは高い。しかし、必ずしも天文分野の学習内容の理解度が高いとは言えない。これは、児童生徒の問題もあるが、教える側の教員にとって、天文学に対する苦手意識が多分にあり、観察・実験があまり実施されていないことが一因である。そこで、生徒自身の体験を通した理解を図ることとして、埼玉大学のSaCRA望遠鏡に、冷却高感度CCD撮像装置を搭載して、実際に児童生徒が天体観測を体験するというプログラムや、これらを用いたZOOM配信などによるリアルタイムでのウェブ観望会を実施した。加えて昨年度からは、高校生、及び、教員養成系の大学生を対象として、プラネタリウム番組を制作し、その発表をするという教育実践を実施した。受講した生徒・学生ら自身が各々の興味関心をもとに、観覧対象やテーマを自由に設定し、調査・企画や番組構成・演出などの一連の制作活動を行ない、最終的にその作品を、プラネタリウム施設を用いて発表するというものである。本実践を通して、天文分野の知識や理解だけでなく、天文や星空への興味・意識も向上し、伝える力や自ら学びに向かう力が育成されつつある。これまでは、コロナ禍のためプラネタリウム施設の人数制限など限られた条件下のため、高校生・大学生ともに少人数チームで独立して進めていたが、今年度は少し交流をもたせて互いにフィードバックをかけながら進めるような工夫や、より多い人数を対象とした教育実践を実施していきたい。将来、小中高の教員になる学生らに、教科書に載っている全ての事項を説明するのではなく、どこをどのように伝えたらより印象に残りやすく、理解が深まるか、知識の定着につながるかを考え、教科書にない専門用語を初めて聞く人にでも分かるような表現力を育成することで、主体的・対話的で深い学びを施していきたい。
新型コロナウイルスの感染拡大による社会状況の変化により、本研究の計画で想定していた装置開発・製作および、運用に遅延が生じている。特に、本研究で必要となる学校現場などでの試験運用などができない状況であること、学校等への出張も厳しく、学校での運用を経たフィードバックや調査等が難しい状況であること等から、全体の研究計画の大きな見直しが必要となった。現在は、学校現場での実験が必要ではないが、生徒・学生に実感を伴った教育となるように計画変更をしている。以上の理由により、繰越金が発生した。次年度は、コロナ禍などの厳しい社会状況にも比較的対応がしやすい、インターネットを活用した望遠鏡を用いた天文教材やプラネタリウム番組制作のための物品および消耗品や、天文台・科学館などへの出張や成果発表の出張に充当する予定である。
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