本研究の目的は、身近な物理現象と教科書的な物理モデルのあいだを結ぶ有限要素法(FEM)シミュレーション計算をもとに、実験授業・講座等において討論活動を導入し、背後にある理論のもつ概念的な側面を着実に受講生に意識させる教授方法を確立することにある。まず、大学物理実験テーマ(高抵抗シート上の電流による等電位線の測定)について、身近な物体形状と物理モデル単純形状を含む多数の形状でシミュレーションを行い、学生間のグループ討論のための足がかりを与える素材資料として用意した。身近な形状は特徴的な位置に名前をあてて理解の意思疎通が容易にでき、因果関係の相互理解にも擬人化による言語化が可能となって、特に学習初心者には有効であることが分かった。さらに、視覚的印象度が大きい力学現象を観察し、その原因となる目には見えない電流や磁場を考察させる活動を、高校生向け実験講座等で行った。実験に対する考察や説明の後に、シミュレーションによる具体的な裏付けを与えることで、自らの理解を確認したり修正したりすることができた。ここでは「回転するアルミ板上での磁石にかかる力」という例をもとに実験装置とシミュレーションの開発を行って実施した。応用例としての電磁ブレーキや超電導リニアを念頭に置きながらアルミ板の回転速度や磁石の位置を変化させ、磁石による円板のブレーキ効果や磁石の浮遊効果が変わる様子を実体験させながら、条件を変化させて行ったシミュレーションの結果が変わる様子を示した。これにより、目に見えない物理量への興味が広がり、その現象についての討論が促進された。 最終年度では、大学物理実験で実例を含むシミュレーションを10点テキストに組み込み、予習段階での考察が可能となった。条件を自由に変えて計算を体験させる活動は今後の課題である。磁気浮遊実験装置は手で回して効果を観察できる形に改良し、一般市民向けの講座で活用できた。
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