研究課題/領域番号 |
17K00963
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研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
下井倉 ともみ 東京学芸大学, 教育学部, 研究員 (30569760)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 教員養成 / 小学校理科 / 理科教育 |
研究実績の概要 |
過去の調査から、社会や国語等の理科以外の科目を選修している教員志望学生(以後、非理科生)は、「理科を理解するための科学的に考える力が身についていない」、「小学校で理科の学習項目を教える自信をもてない」という問題を抱えていることが分かっている(下井倉ほか2017, 地学教育)。本研究では、非理科生を対象に、彼らに理科の指導の自信をもたせるための指導法を開発する。平成30年度は、複数の学習プログラムの開発を行った(内容は次節)。また、そのプログラムを用いて非理科生を対象にした実践授業を行った。 プログラムの実践は、東京学芸大学2年生を対象にした教科(理科)に関する必修科目の授業を利用して行った。この科目の受講者は、全員が非理科生である。プログラムを実施する前に、受講者に対し、プログラムで行う内容について(1)理科に関する苦手意識調査、(2)理科に関する理解度調査を実施した。その結果、5割以上の受講者が理科に苦手意識を持つことが分かった。また、7割以上の受講者が指導すべき理科の内容について理解及び知識不足である問題が明らかになった。そのため、講義は、まず各内容について受講者の知識不足を補うことから始めた。その次に、受講者に各内容を理解させるために、内容に沿った実験または観察を行わせ、実験・観察結果をレポートにまとめさせた。その後、児童への指導案を作成させた。最終講義時に試験及びアンケート調査を実施した結果、受講者に科学的な説明力の向上が見られた。また、理科の指導の自信に対しても向上が見られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)非理科生の知識・理解度合いの把握 受講者に対して、プログラムで行う小学校理科の内容についてどれくらいの理解をしているかを知るためのアンケート調査を実施した。受講者数は71人である。その結果、7割以上もの受講者に内容の理解不足が見られた。これは小学校理科の指導に関して深刻な問題である。アンケートでは、「大気圧」、「振り子の等時性」などの語句について30字程度で説明をさせる設問を設けたが満足に説明できたのは全体の3割であった。また、「日なたの地面は暖かく、日かげの地面は涼しいのはなぜか。小学校3年生の児童に説明せよ。」といった説明をさせた設問については、満足に回答した学生は1割に満たなかった。 (2)開発プログラムの実践の結果明らかになった非理科生の問題点 学習プログラムを実践することにより、非理科生の問題点を明らかにした。「振り子の運動」を例にして以下に述べる。まず振り子についての講義を1限行った。次の1限を用いて、3-4人のグループごとに、実際に児童に実験を行わせることを想定し、小学校第5学年 振り子での単元履修目目標を理解して実践させるための実験を行わせた。実験に関する材料はグループごとに用意させた。実験中、振り子の「ひも」が切れる等のグループも見受けられたが、このために予備実験の大切さを指導することが出来た。実験後、受講者には彼らの実験結果をレポートにまとめさせた。その結果、約半数のグループのレポートで「教科書に掲載されている結果」を出すことが実験目標となっている報告が見られた。「"糸につるしたおもりが1往復する時間は、おもりの重さなどによっては変わらないが糸の長さによって変わること"となるはずだが、自分たちのグループの結果はそうならなかったため、どこかで間違えた」または、「自分たちのグループの結果はそうならなかったため、本当は'糸の長さによって変わる'が正解である」。
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度は、これまで実施したアンケート調査の詳細解析を進める。また、これまでの実践結果及び受講者の問題点を踏まえ、学習プログラムのブラッシュアップを行う。アンケート調査結果から、5割以上の受講者が数字や数式に対して苦手意識を持っていることが明らかになった。その原因の1つは、非理科生の多くが高校生の時に文系に属し、物理・化学・生物・地学の基礎的な学習を十分に積まないまま大学に入学してくることにある。さらに、大学に入学してからも、理科の内容を直接取り扱う授業(指導法・教育法以外)は、非常に少ない。また、小学校学習指導要領解説「理科」第1目標では、「自然に親しみ、見通しをもって観察,実験などを行い、問題解決の能力と自然を愛する心情を育てるとともに、自然の事物・現象についての実感を伴った理解を図り、科学的な見方や考え方を養う。」となっているが、受講者自身に科学的な見方や考え方が養われていない。この原因としては、非理科生自身が、「問題-仮説-観察・実験-結果-考察-結論」という一連の流れの経験が少ないためであると考えられる。自分自身で出した結果を踏まえて考察し、それらを通して自らの力で結論を導く経験を繰り返さない限り、論理的思考力や科学的な見方は身につかない。以上を踏まえ、講義・実習・授業考案による学習プログラムをブラッシュアップする。1つのテーマの授業時数は2-3時限数程度とし、テーマごとに指導法と教材(実験・観察のための器具とワークシート)の開発を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
成果報告のまとめが遅れたため、発表するための投稿料を使用しなかった。よってその分は次年度使用額とし、次年度の天文学会/地学教育学会への参加、もしくは、論文投稿料として使用する。
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