研究課題/領域番号 |
17K01019
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
窪川 かおる 帝京大学, 付置研究所, 客員教授 (30240740)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 海洋リテラシー / 社会教育施設 / ジェンダー / 科学教育 |
研究実績の概要 |
近年、温暖化、海洋酸性化、海洋プラスチックごみなどの海洋汚染による海洋生態系の破壊、台風の大型化などの自然災害により、海洋の問題が深刻化している。四方を海に囲まれる日本は、海洋問題の現場であり、海洋を科学的に理解し、海洋が持続可能な地球環境および社会の構築に重要な役割を果たすことを理解することは重要である。実際に、学校教育では海洋を扱うカリキュラムが少なからずあり、水産物は身近であり、体験学習は海に行く機会となっている。しかし、海洋リテラシー、すなわち海洋についての科学的知識を基にして総合的に海を理解することを目的とするカリキュラムや体験は学習指導要領の下では難しい。海そのものの理解を目的とするには、総合的かつ体系的なカリキュラムの導入が必要であるが、それは現実的ではない。 一方、日本は沿岸域の社会教育施設が多い国である。また臨海実験所や水産実験所などの研究施設の数が世界でも突出している。これらの施設で実施される海洋リテラシーの向上への貢献は大きい。各施設で企画を持ち、テキストも工夫を凝らして作成されている。しかし、これらの優れた企画やテキストの多くは生物が中心に扱われ、物理環境や生態系の観点を中心とするものが少ない。海洋リテラシーのための体系的な学習には構成が不足している。そこで、本研究は、社会教育施設等における海洋の学びの現況を調査し、総合的な海洋の理解に向けた教材の作成を目的とした。 令和2年度は、新型コロナウィルス感染症拡大のために社会教育施設の現場での調査が出来ず、これまでに蓄積してきた教材の整理を継続し、新しい学習指導要領の教科書調査を小学校について完了した。さらに「かけがえのない海」と題するホームページを作成し、海洋リテラシーに関する研究の成果の整理と集約および公開のためのプラットフォームを構築し、学習教材と海に関する種々の情報の掲載を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
延長による最終年度であったが、新型コロナウィルス感染症拡大の影響が若干あった。社会教育施設等からの収集資料を整理し、日本の海洋リテラシーの学びの傾向を明らかとする計画に対して、社会教育施設の現場訪問や閉館中の相手への電話やメールでの情報収集が難しかったため、新規調査は出来なかった。以上から体系的な海洋リテラシー育成への提案に至っていない。また、新しい学習指導要領での教科書調査を行い、小学校の教科書では終了し学会発表をしたが、参考資料の入手や図書館での資料を十分に閲覧できなかったため、論文発表は準備段階に留まっている。さらに中学校の調査が途中段階である。一方、子ども達の海の学びを促進するには、子どもに接する時間の長さや影響力を考慮すると、母親や女性教師といった女性が海洋リテラシーに目を向けることが必要であることを本研究の過程で気付き、海の女性ネットワークを立上げた。ここでは子ども達への海洋科学教室や講演などを実施して海洋リテラシーの向上への実験的な活動をしてきたが、令和2年度は、この現場での活動ができなかった。しかし「海の女性ネットワークの協力を得て「かけがえのない海」をテーマとするホームページを作成し、海洋リテラシーに関する情報を掲載し、本研究の成果発表の場とするための整備を進めることができた。インターネット利用が進む中でのホームページの活用となり、現在までの本研究で使用した資料や作成した教材等の掲載を進めている。計画は完了していないが来年度への再延長ができることになり、全体的にやや遅れていると自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度は、海洋リテラシーの育成に向けた提言という最終目標の達成が難しくなり再延長となった。次年度の継続では、社会教育施設からの資料収集・整理と中学校の教科書調査の未完部分をまず完成させる。同時にできるだけ早く体系的な海の学びを支える総合テキストの執筆を終わらせる。本研究でのテキストは紙媒体を想定していたが、令和2年度に社会や教育現場ではオンライン利用が普及したことを考慮し、映像・画像による電子テキストへの改訂を並行して進めたいと考えている。また、海洋科学教室などのイベント、出前授業や講演を現場で行うことは令和3年度も制限付きとなることが予想され、教材だけでなく、講演や海洋科学教室などの企画をオンラインで実施する方向を考えている。 本研究の実施は、社会教育施設および海洋関連の人的繋がりを広くする結果となり、テキスト作成や提言準備や教材の使用評価に対して、多様な世代や職種からの意見を集め、実施の際の協力も得られることとなってきている。さらに近年は、次世代育成として子どもを対象とする海洋科学のイベントが増えているが、一般を対象とする海洋リテラシーの向上が喫緊の課題であり、もっとも重要である。誰もが理解できる海洋リテラシーに海洋科学者の知識と経験が最重要であることは言うまでもない。令和3年に「持続可能な開発のための国連海洋科学の10年(UNDOS)」が始またため、本研究の体系的な海洋教材と海洋リテラシー向上への取組をUNDOSと関連させていく。 一方、本研究の期間中にできた海の女性ネットワークで、女性の海洋の理解増進を進め、そのホームページには本研究で整理した資料、開発した海洋教材、提言などを掲載して、海洋リテラシーの普及に努める。本研究助成の終了後も、研究代表者がホームページを管理し、海洋リテラシー学習のプラットフォームを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
最終年度の延長をした令和2年度に新型コロナウィルス感染症が拡大し、調査施設への訪問調査や図書館の利用の制限などが生じ、当初の計画の一部が未完となった。訪問調査が出来なかったことは、旅費と謝金を大きく残し、図書館での資料収集の低下と合わせて、物品費の使用も少なかった。また、教材印刷のための物品費も使用できなかった。一方、その他の費目は、ホームページを作成して成果公開とその利用のためのプラットフォームとしたため、交付決定額を上回った。総じて前述のように実施できなかった計画は、次年度への延長を認められたことにより実施可能となり、研究計画を継続できることになった。使用計画は、訪問調査のための旅費、教材作成に関わる謝金と物品費、教材の実践のための講義および科学教室を実施する旅費と謝金を計画している。新型コロナウィルス感染症が令和3年度の実施にも影響した場合には、旅費の使用が制限されるため、物品費と謝金により教材およびホームページの英文化を実施する計画である。
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備考 |
学術の動向 特集「『持続可能な開発のための国連海洋科学の10年』を多様な視点から考える」の企画編集と特集の趣旨の執筆。26巻、9-67。
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