医療従事者の生命科学リテラシーと養成課程における形成に関する研究

2019 年度 実施状況報告書

• 研究課題/領域番号: 17K01026
• 研究機関: 名古屋大学
• 研究代表者: 加納 安彦 名古屋大学, 環境医学研究所, 助教 (50252292)
• 研究期間 (年度): 2017-04-01 – 2021-03-31
• キーワード: 疑似科学 / コ・メディカル / リテラシー / 健康食品 / 医療従事者養成

研究実績の概要

科学的な内容を装いながらもその実体のない商品の宣伝が後を絶たず、この中には健康の増進や疾患の予防につながるかのように謳った食品も少なくない。本研究では、日常的な宣伝の実態を把握するとともに、一般市民と医療関係者にどのように浸透しているかを明らかにする。さらに、医療従事者養成校の学生を対象にしても同様の調査を実施し、学習による意識の変化を検討する。第３年度（2019年度）までに、以下のような成果を得られた。
１）２紙の日刊新聞掲載広告ならびに折り込み広告を対象に、食品あるいは健康食品として、似非科学的な内容を含んだ２カ年分（2017年5月－2018年4月と2019年4月－2020年3月）の広告を抽出・整理した。例えば、コラーゲン含有を謳った食品の広告は２紙２年間で751件あり、40社で60品目以上の商品の広告を収集した。
２）2018年２月に、一般市民（約10,000人）と医療従事者（約500人）を対象としたインターネットアンケート調査を実施した。いずれにおいても多くの疑似科学的宣伝が深く浸透していることが明らかとなった。この解析結果は日本科学教育学会第42回年会（長野）で発表した。
３）愛知県並びに岐阜県下の医療従事者養成校に呼びかけ、合わせて13校・学科から協力を得られ、2018年４月入学生に対して、入学時から毎年度はじめにアンケート調査を実施した。質問内容は医療従事者向けのインターネットアンケートと同様であった。多くの疑似科学的宣伝が深く浸透していることも明らかになるとともに、学年進行に伴って意識が変化する内容と変化しない内容があった。
４）上記のアンケートの集計結果はそれぞれの学校に送付するとともに、延べ４校９学科では教員対象の報告会を実施し、意見交換を行った。
５）医療従事者を対象とした疑似科学に関するアウトリーチ活動として、『疑似科学入門』と題して６回のレクチャーを行った。

現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

２紙の日刊新聞掲載広告ならびに折り込み広告を対象として、２カ年分の似非科学的な内容を含んだ広告を抽出・整理した。現在、宣伝のための手法やキャッチコピーの分析を始めるための準備が整っており、別途研究計画によって解析を進める予定である。
インターネットアンケート（マイボイスコム社に依頼）によって、一般市民約10,000人を対象としたアンケートを実施し、結果を得られた。これらの内、約500人の医療従事者を対象にさらに質問し、回答を得ることができた。このアンケート結果を集計し解析し、日本科学教育学会第42回年会（長野）で発表した。
また、愛知県並びに岐阜県下の看護師養成校７校、理学療法士養成校３校、鍼灸師養成校２校、柔道整復師養成校１校（学生数の合計は約1,600名）の協力により、在校生に対するアンケート調査を実施した。2018年４月入学生に対して、入学時から毎年度はじめにアンケート調査を実施しており、最終学年（３年）におけるアンケート調査を実施する必要から、１年間の延長にいたった。

今後の研究の推進方策

これまでの成果を生かし、今年度には以下のように研究を進める予定である。
１）医療従事者養成校での知識の正確性と意識の変化などを問うアンケート調査を継続して実施する。特に、学生の意識変化を追跡するために、2018年度入学生を対象に、３年進級時、さらに卒業時に同様のアンケートを実施し、入学時の意識がどの時点で化したかも調査する。一般市民並びに医療従事者を対象とした調査結果と比較し、教育の効果を検討する。
２）実施したアンケートの結果について、先行研究を踏まえるとともに、他の研究者とも議論を進める。この結果から、医療従事者養成校の学生と医療従事者、さらには一般市民それぞれの知識や意識について考察する。
３）実施したアンケートの結果を踏まえて、医療従事者ならびに養成校学生に対して、疑似科学に関する教育プログラムを検討する。

次年度使用額が生じた理由

第３年度においてはほぼ計画通りの執行であったが、前年度からの繰り越し分の執行がやや十分ではなかった。本年度はアンケート調査の集計のための人件費ならびに必要な資料の購入費として使用する予定である。