研究課題/領域番号 |
17K01028
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研究機関 | 京都教育大学 |
研究代表者 |
芝原 寛泰 京都教育大学, 名誉教授 (60144408)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | マイクロスケール実験 / 個別実験 / 教材開発 / 授業実践 / 言語能力 / 小学校理科 / 中学校理科 / 高校化学 |
研究実績の概要 |
H29年度は研究期間の初年度として、研究目的である「マイクロスケール実験の導入による理科実験の個別化と児童・生徒の能動的学習の支援」に向けて、教材開発を中心に取り組み、学会発表、論文その他の公表を継続的に行った。教材開発では理科実験の個別化を可能にする教材に特に注目し、さらに個別実験が児童・生徒の学習の支援に役立つか、教材開発の方向性、調査方法の検討に向けて取り組んだ。また「言語能力の育成」にも焦点を当て、開発した教材がどの程度貢献できるかの判定方法についても、学校現場の意見をふまえ、さらに検討を重ねた。試みとして実験前後のアンケート調査について、概念の変容調査と設問に工夫を行った。 前年度から継続している呈色板によるマイクロスケール実験の教材開発については、学校現場への普及を目的としたテーマであり授業実践を実施した。また呈色板を用いた電気分解実験についても積極的に実践活動を行い、同学会での発表を経て、その後、科学教育研究に掲載(H29年6月)された。 また、高校化学の有機化学分野を対象にしたマイクロスケール実験の教材開発と授業実践にも取り組んだ。有機化学分野の実験では、有機溶剤の使用や加熱により、従来のプラスチック製の器具の使用が難しいため様々な工夫を行いながら、器具の見直し、安全で確実な操作に重点をおいて研究を進めた。研究結果については理科教育学会で発表を行った。またマイクロスケール実験の紹介記事を執筆した(少年写真新聞社、啓林館等)。理科教員養成の立場から、理科指導法等の大学授業で用いるテキスト(電気書院発行)を執筆(H29年6月発刊)。同書には10件のマイクロスケール実験を含む授業案を掲載した。 以上よりH29年度において開発した教材実験は高校理科5件、中学校理科2件、小学校理科1件で、授業実践は3件、著書1件、学会発表2件、論文および解説文の公表4件である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究期間の初年度の段階においては、おおむね順調に進んでいる。定年退職を機会に、卒業生を中心として学校現場との接触についてもより積極的に図り、教材開発と授業実践という研究の基本的な体制を維持することに努めた。その効果もあり、ほぼ順調に教材開発を進めることができた。しかし授業実践の機会が少なくなる傾向もあり、今後の課題として改善を図りたい。 日本理科教育学会における課題研究発表については、マイクロスケール実験の普及、学校現場との交流、情報交換の趣旨において、継続的に行い一定の成果をえることができた。また、小学校理科及び中学校理科を対象にした実験を含む授業案をまとめ、単行本として出版することができた。この中では、マイクロスケール実験と通常スケール実験の効果的な併用も提案し、今後の研究の方向性としてアピールした。 以上より、本年度は当初の計画とおり研究をほぼ順調に進めることができたが、次の点を課題としてまとめるに至った。1)授業実践の機会をさらに増やす。2)新学習指導要領との対応にむけて、より具体的な教材実験、授業案の提示を行い、実践的な活動を行う。 現在までの進捗状況を踏まえ、今後の取り組みとする。
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今後の研究の推進方策 |
次年度(H30年度)は、研究期間の2年目として、マイクロスケール実験の特徴を生かした教材開発と授業実践を行いながら、学校現場への普及をさらに推進するため、実験手順、ワークシート等の作成と整備も行う。同時に、小学校、中学校及び高校の学習指導要領の改訂及び完全実施を迎えるにあたり、それに対応した取り組みを行う。すなわち児童・生徒に求められる「主体的で対話的な深い学び」に、マイクロスケール実験による個別実験がどのように貢献できるか、より実践的な観点で取り組む予定である。具体例としては、中学校理科で取りあげられる「ダニエル電池」について、安全性を保ちながら、より簡便に短時間で実施できる教材を開発し、学習の主目的である「イオンの概念」の獲得に向けての授業展開も併せて検討する。特に教材開発の段階においては、電極付近の反応、半透膜の役割等が実感をともなって理解できるように器具、観察方法等に工夫を行う。実験における詳細な観察が、考察の深化を伴い,さらに深い理解に繋がることを実践的に証明する研究目的が背景となっている。 また、新学習指導要領との対応にむけて、深い学びに繋がる言語能力の育成についても注目する。個別実験等が言語能力の育成に対して、どの程度の貢献があったかを判定する方法についても、学校現場の意見をふまえ、さらに検討を重ね検証できる体制を整えたい。以上のことは今後の研究継続の上でも重要であり、優先度を上げて取り組みたい。また学校現場や他大学との交流を深めるためにも、理科教育学会での課題研究発表や科学館等での実験教室も積極的に取り組み、研究成果の社会還元も図りたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
(B-A)が29626円となったが、これは購入物品の予定額より安く購入できたこと、また消費税等の推定に誤差が生じたためでる。研究内容に大きな変更はなく、ほぼ予定通りの予算の執行であった。
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