研究課題/領域番号 |
17K01045
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
大木 聖子 慶應義塾大学, 環境情報学部(藤沢), 准教授 (40443337)
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研究分担者 |
厳 網林 慶應義塾大学, 環境情報学部(藤沢), 教授 (10255573)
広田 すみれ 東京都市大学, メディア情報学部, 教授 (90279703)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 不確実性 / 地震 / 災害 / 防災 / コミュニケーション / ナラティヴ / ハザードマップ / 地震動予測地図 |
研究実績の概要 |
2017年度は研究計画に沿って自治体の防災担当者へのヒアリングを行った.日本で唯一,活動的な活断層が指定されていない岡山県の県庁危機管理課の担当者は,「公助の部分は、まあ自分達自身がですね、職員自身が頑張れば、ある程度こうレベルアップはできるんだけれども、その,県民の皆さんにこの、自助共助の働きかけで、実際に行動してもらったりするっていうのがですね、まあ非常に難しい」と述べ,その啓発として地震動予測地図を活用しているとのことだった.しかし,地震動予測地図が効果的かどうかについては明言を避けるものの,「例えば岡山県なんかでも、こう同じような、まあどっちかっていうと、ぱっと見この地図を見るとまあ黄色いなぁみたいな受け止め方になるのかなっていう」と述べ,ヒアリングの最終段階では「これでいくと、1%とか数%だともう高い域に入ってしまうという.感覚的によくわかんないですね。ではもう何十%と数%とどう違うんだっていう」と本音とも思われる発言もみられた.地震動予測地図による一般市民への啓発には課題があることがあらためてわかった. 一方で,高知県土佐清水市からの依頼で行っている防災教育において,以下のような防災教育を中学生を対象に行った.学校が1ヶ月ほど先の日付と天気を指定し,その日に南海地震が発生したと想定して,その時自分がどのように行動するかを小説にする,という活動である.得られた「防災小説」からいくつかを選定して地域に向けた発表会を行ったり,冊子にして地域に配布したりした.するとこれが大きな反響を得て,家庭での防災対策が促されたり,地域のマニュアル改定のモチベーションになったりと,結果的に多様なステークホルダを巻き込んでの協働となっていった. これは後述欄に記載するように,本研究テーマに強く関連する課題への糸口であり,本研究テーマと関連付けて,今年度並行して研究を進めた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
高知県土佐清水市の中学校での「防災小説」作成の活動が,予想以上に反響があり,学校の枠を飛び出して多様なステークホルダとの協働を促進したため,本研究テーマに強く関連する課題への糸口と判断して,こちらの研究に一定の時間を割いたため,当初の研究計画から進展が遅れているが,探求したい課題の答えには下記の通り近づいたと判断している. 「防災小説」では,同じ地域であっても小説を綴る中学生によって様々な登場人物,様々な被害パターンの物語としてできあがる.したがって,これを聞いたり読んだりした読者は,そこに災害発生時の不確実性を感じ取ることができる.これはまさに,本研究で重要なキーワードであり,現実的には防災のリスク・コミュニケーションをより困難にしている「科学の不確実性の伝達」の成功例と言えるだろう. また,小説に登場する極めてローカルな地名や呼び名は,その地域の住民の頭の中にある地図に明確にマッピングされていく.その点において,「防災小説」は当事者目線のハザードマップでもある. つまり地元中学生による「防災小説」は,地震発生日やその時の規模や被害状況といった不確実性を,中学生ひとりひとりが綴った物語という形式で表現したリスク・コミュニケーションであり,それを見聞きして頭の中に描かれるのは,多様なパターンを表現したハザードマップである. 「防災小説」の有効性を検証することは「不確実性を含むリスクの伝達には,確率ではなく多様なストーリー(ナラティヴ)が有効」という仮説を検証することでもあり,本研究で解決したい課題へと大きく近づくテーマとなるため,本研究のエフォートを適用して研究を進めた.
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今後の研究の推進方策 |
「不確実性を含むリスクの伝達には,確率ではなく多様なストーリー(ナラティヴ)が有効」という仮説の検証を進めるため,今後は以下のような研究計画で進める.当初研究計画通り,ウェブ調査とヒアリングという大きく2つの調査方法を行うが,調査内容についてはこれまでの研究を踏まえてより具体的に以下のようにする.確率論的地震動予測地図を見せた群と「防災小説」のようなナラティヴを見せた群とに分けて,リスク認知を測る.その後,調査終了後に防災対処行動のリストを掲示し,さらに1ヶ月後に,対処行動に及んだかどうかの追跡調査を行う.ヒアリングにおいても同様に,2つのパターンで印象がどのように異なるかを聞く.また,ヒアリングにおいては,確率論的地震動予測地図が便利だと思う点と不便だと思う点をそれぞれ聞き,それらにどの立場から答えているかについても注意深く観察する.(例えば,便利だと思う点については地震学者として答えているが,不便だと思う点については一般市民の視点に立っていないか等.) これらの調査から得られた結果に基いて,冒頭に記した仮説を検証し,仮に仮説が正しかった場合には,それを踏まえた形式のシンポジウムを,多様なステークホルダを招いて開催する.また,自治体の防災担当部署へ結果をフィードバックする.
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次年度使用額が生じた理由 |
シンポジウムの開催を次年度計画にしたため.同年のシンポジウムは自治体からの依頼があったため,そちらの経費で実施された.
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