研究課題/領域番号 |
17K01049
|
研究機関 | 札幌市立大学 |
研究代表者 |
若林 尚樹 札幌市立大学, デザイン学部, 教授 (40254586)
|
研究分担者 |
田邉 里奈 千葉工業大学, 先進工学部, 准教授 (50386786)
政倉 祐子 愛知淑徳大学, 創造表現学部, 准教授 (60468915)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 視覚的対話 / 共有 / 体験 / 図的表現 / コミュニケーション |
研究実績の概要 |
本研究は,体験プログラムやワークショップなどで,体験や情報の共有のための視覚的対話手法の提案とその評価手法を開発しその汎用化を目指すものである.初年度の成果をもとに,動物園での体験プログラムだけでなく,デザインコンセプトの企画・アイディア展開などのクリエイティブなプロセスにおける,参加者同士のイメージの共有化やコンセプトの検討に落書きコミュニケーションによるケーススタディを,いくつかの異なるテーマや参加者を対象に実施した.その結果,図的な表現の方法や展開のステップにはそれぞれ異なる特徴があるものの,参加者に対する観察やインタビューをもとに視覚的対話が有効であるとの知見が得られた.それとともに描かれた落書きを分析することにより図的表現の分類や図的表現の体系的な整理が可能であることがわかった. これらの成果は日本デザイン学会や日本動物園水族館教育研究会などの関連学会において計4件の報告を行い,活発な意見交換によって多くの知見を得た.また,こども環境学会の論文誌で査読論文1件として掲載された.また,視覚的対話手法の活用展開のフィールドを探るために,水族館を対象にそこで開催されているワークショップの調査をもとにワークショップの類型化を試みた.日本動物園水族館協会に加盟する60の水族館を対象に,各館のwebページに公開されている情報から1360のワークショップの実施状況の調査を行い,そのプログラム内容から「スクール型」「体験型」「ツアー型」など8タイプのワークショップに分類することができ,その中でも「体験型」ワークショップが最も多く実施されていることが明らかになった.今後その結果をもとに,タイプに応じた参加者同士の視覚的対話手法による体験や情報の共有の手法を検討していく予定である. これらの成果は2019年度に開催される日本デザイン学会などの関連学会で積極的に報告する予定である.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた水族館での実証実験は,対象予定の施設から辞退の申し出があったため,横浜市金沢動物園と東京都上野動物園,札幌市円山動物園の3施設での検証実験を実施した.これらの動物園はさまざまな形での体験プログラムを実施しているとともに長い歴史を有する施設である.そのため,当該施設が有する体験プログラムに対するノウハウと,実証実験のフィールドとしての協力は本研究にとって有用である.一般来園者を対象としたワークショップや学生を対象とした動物園の体験プログラムなどいくつかのタイプの落書きコミュニケーションを取り入れたプログラムを実施しそれを分析することで,当初予定していた落書きコミュニケーションによる視覚的対話手法の有用性と,描かれた図的表現の要素の分類とそれらの関係性の表現について体系的な分類をすることができた. また,視覚的対話手法の多角的な分析を行うため,企業を対象とした周年事業に関連したデザイン制作や,クリエイターを対象としたイベントでの販売企画のアイディア展開をテーマにした学生の参加するワークショップにおいて,視覚的対話手法を活用したケーススタディを重ねた.その結果,情報の共有とアイディアの展開のプロセスにおいて,対話における図的な表現が有用であり,そこで描かれる図的表現が動物園での体験プログラムにおける活用法とは異なる特徴を有しながらも,図的表現を媒介とした視覚的な対話が効果的であるという知見を得ることができた.
|
今後の研究の推進方策 |
2019年度は動物園で実施されている体験プログラムを構成する要素を抽出し,体験プログラムの目的や参加対象者などの違いによるプロセスの特性を明らかにするとともに,体験プログラムにおいての振り返りの位置付けや落書きコミュニケーションの利用可能性について検証実験を継続して行う.また,これらの検証実験を通して落書きコミュニケーションによる視覚的対話を用いた振り返りの要素の抽出と分析を行う.それをもとに参加者同士がインタラクティブな対話を通して体験を共有し,共感するための視覚的な対話の手法としての落書きコミュニケーションのモデル化を行う. また,視覚的対話手法の多角的な分析を行うため,企業と連携しクリエイティブワークにおける視覚的対話手法を活用したケーススタディを重ね,図的表現を媒介とした視覚的な対話手法の汎用化と活用事例の蓄積を行う.さらに,視覚的対話手法を利用した体験や情報を共有するためのガイドライン作成を目指し,協力いただく園館の年間スケジュールとして日程の確保をいただいている.さらに,実証実験の実施と合わせて,関連学会や研究会等での成果発表を行うとともに,査読論文の執筆も行っていく予定である.
|
次年度使用額が生じた理由 |
2018年度は,金沢動物園,上野動物園,円山動物園での体験プログラムにおける視覚的対話手法の検証実験を実施するとともに,企業との連携によるケーススタディを実施したことで研究計画を達成できた.しかし,論文投稿などの研究成果の発表公開については,当初の予定数に達することができなかった.また,実施した体験プログラムでの教材費用が当初の予定より少額となったために繰越金が生じた.そのことから2019年度も上記3施設での検証実験を継続するとともに,企業と連携し,デザインプロセスにおけるクリエイティブワークでの比較検証を重ねることで,視覚的対話手法の活用についての構成要素の抽出と,モデル化を通してその特性を明らかにする.
|