研究課題/領域番号 |
17K01052
|
研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
杉本 裕二 同志社大学, 文化情報学部, 教授 (90311167)
|
研究分担者 |
武藤 憲司 芝浦工業大学, 工学部, 教授 (30259832)
浅井 紀久夫 放送大学, 教養学部, 教授 (90290874)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 臨場感 / 仮想空間 / 可視化 / 移動音像 |
研究実績の概要 |
大規模災害において、退避及び救助活動における意思決定を行うための環境を構築し、質の高い防災訓練の機会及び災害時の活動の支援を提供する基盤を整備する。そのために、1) 災害状況を具体的にイメージできる、臨場感を伴った可視化・可聴化を行う提示環境の構築と、2) 災害発生時に避難行動を開始する行動を促す環境の探索を行う。前者として音響環境における音像定位の簡易化に取り組んだ。後者としてSNS等、インターネットを使って人々と交流できるサービスに基づく情報から避難行動に結びつく情報を抽出するための検討を行った。 高臨場感を実現する音響システムではその演算量が莫大であり、防災訓練としてのシステムの普及を考えた場合に障壁になる。そのため、簡易的な移動音像の提示方法として、音像の座標を離散的に与えて、音像定位の演算量を減らす方法を考案した。しかし、音像定位の離散化が臨場感に与える影響が明らかになっていない。そこで、音と映像の動きの整合度を計測し、音像の移動速度が臨場感の評価に与える影響を調べた。その結果、平均評価値において分割数が少ない場合、移動速度が速いと整合度が低下する傾向があることがわかった。 SNSは、デマ拡散などの問題はあるものの、被災地域内の住民同士の情報共有やコミュニケーション、復旧支援活動につながるメディアとして期待されている。一方で、SNSのつぶやきを分析することで、現場で起きている事象や動向を把握する試みが行われている。そこで、Twitterのつぶやきを収集し、分析することにより、その利用者が感じている思いを推定することを検討した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
災害状況を具体的にイメージできるようにするため、臨場感を伴った可視化・可聴化の提示環境、適切に避難行動を行う意思決定のための機能の構築に対し、今年度は普及を目指した廉価システムの導入、仮想環境内での行動の履歴機能の設計を主に計画していた。 これまで、映像の臨場感に対して検討を行ってきた。没入型投影ディスプレイによる立体視映像の提示の評価実験を実施し、立体視よりは広視野が臨場感にとって重要な要素であることがわかってきた。大規模な震災が発生すると、停電が生じると予想され、特に夜間、闇の中での行動等を想定した場合、音情報が重要になる。しかし、訓練環境の臨場性を考えた場合、映像と音響との整合性がさらに重要な問題になると考えられた。そこで、移動音像の映像との整合性が臨場感に与える影響を評価することにした。その結果、演算負荷を増やさないやり方で適切に移動音像を提示する目処が立ってきた。 適切に避難行動を行う意思決定のための機能の構築に対し、防災シナリオの作成を計画していた。しかし、実際に災害を体験した人の中でもその状況によって対応が様々であり、また、大規模災害を体験したことのない人はそもそも緻密なシナリオを作成すること自体が難しいと考えられた。そこで、実際の避難行動の状況を把握するために、インターネットを使って人々と交流できるサービスに基づく情報から避難行動に結びつく情報を抽出するための検討を行うこととした。研究発表には至らなかったものの、情報抽出の一例として、Twitterのつぶやきを分析することにより、その利用者の感情を推定できそうであることは確かめられた。 上記のように研究が進んでおり、「おおむね順調に進展している」と判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
昨年度に引き続き、臨場感を伴った仮想空間による可視化・可聴化の研究を進め、映像音響の臨場性、特に音像定位の映像との整合性に着目すると共に、防災シナリオを作成するための材料として避難行動とそれに関連する情報の探索といった観点で研究を進める計画である。 映像の臨場性について、映像の提示システムとして没入型投影ディスプレイで評価してきたが、簡易な提示システムとしてヘッドマウントディスプレイでの評価を検討しており、既存研究との関係を考慮しつつ、実験室環境での利用者評価を実施する。ヘッドマウントディスプレイでの映像コンテンツ提示の課題と解決策の一端を明らかにする。 音響の臨場性について、現在進めている音像定位の簡易化を推進する。簡易的な移動音像の提示方法として、音像の座標を離散的に与えて、音像定位の演算量を減らす方法を考案してきたが、その臨場感に与える影響は明確ではない。引き続き、映像と音像との関係を明らかにするべく、移動音像に関する評価実験を行う予定である。 今後は提示システムの多様化及び評価、経験知の収集に重点を置いて研究を進める予定である。映像音響の提示の評価では臨場性を保持する条件を明らかにすることを優先して、評価用コンテンツを構築し、評価実験を実施していく。評価用コンテンツでは利用者が自身の視点を移動して、三次元仮想空間内を動き回る機能を実装する。その際、映像と音が整合するように、音像定位機能を組み込む。 実際に起きた災害時の行動や防災上役だったこと等をデータとして収集することを継続して進める。災害によって現地との交通が寸断された状況では、現地で起きている事柄や動向を把握する手段としてSNSは有望である。SNSの情報を収集し分析することにより、時間的な流れと空間的関係といった状況を推定する仕組みを構築する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
理由;前年度に計画していたシステム構築において音響制御を担うハードウェアの問題で遅れていた音像定位に関する設計・実装を優先し、評価実験を大規模に実施することができなかった。また、簡易な提示システムを使った映像の臨場性評価を、既存のシステムを流用して検討したため、次年度使用額が生じた。
今後の使用計画;今後は、映像音響の整合性に関する評価、映像音声の提示環境の構築、SNSからの情報の抽出、コンテンツの構築やその評価を重点的に実施する計画である。未使用額については、映像音響制御機能の実装を含め、システムの多様化、コンテンツの構築、評価に当て、滞りなく執行する予定である。
|