本研究の初年度では,ディジタル技術教育に関する現状の調査と分析を実施した.その結果,工業高校については,ディジタル信号処理技術を詳しく扱った検定教科書や教育実践例は見当たらなかった.一方,大学や高専などで使用されているディジタル信号処理技術を学ぶ各種の教材は,扱う技術的なレベルが高く,入門者である学生向けの教材として難易度が高いものが多いことがわかった. このため,2年目以降は,本研究において構築を目標としているディジタル技術教育プログラムで活用する教材の開発を行った.開発した教材で学べる学習内容は,ディジタル信号処理技術を用いたディジタルラジオにおいて欠かすことのできない主要機能であるディジタルフィルタとディジタル方式の変調回路と復調回路の動作原理に焦点をあてた.これらのディジタル信号処理の基本機能をアナログ信号処理回路と対比しながら学ぶことで,回路構成,動作原理,特徴の違いなどを深く理解できる教材とした.また,実際に聞くことができる音声データを用意して,変調から復調までの処理過程で変化する音声データを聞きながら実験できる機能を付けることで学習者が興味をもって学べるよう工夫した. これらの教材は,ExcelやLabVIEWなど広く普及しているソフトウェア上で動作し,視覚的なシミュレーションなどを実行しながら学べる.また,ディジタルラジオという全体像を意識しながら,その中の各機能を機能単位で学ぶことで,入門者である学生にも理解することが容易になるよう配慮した. ディジタル技術教育プログラムの実践のため,開発した教材を学生らに使用してもらい,教材の有効性を確認し,改良すべき項目について検討した.これらの成果は,「ディジタル信号処理学習支援システムの開発」として,日本工業技術教育学会第29回工業教育全国大会(2019.7)において発表した.
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