研究課題/領域番号 |
17K01079
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研究機関 | 愛知教育大学 |
研究代表者 |
梅田 恭子 愛知教育大学, 教育学部, 准教授 (70345940)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 情報活用能力の育成 / 学習目標の種類の分析 / 著作権教育 / ICT活用指導力 / 資質・能力 |
研究実績の概要 |
2020年度は以下の大きく3種類の研究を実施したり、論文としてまとめたりした。 1つ目に、高校生を対象としたデジタル・ネットワーク社会に対応した著作権教育の研究を行った。現在は、個人が生み出したコンテンツが容易にSNSなどに投稿される時代となっている。このような現状を鑑み、文化の発展のために著作権法やパブリックライセンスについて意義を理解し、利用者・権利者の両方の立場から自らの果たす責任を考えられるための著作権教育の要件を提案し、それらの要件を満たす指導法を考案した。そして、高等学校で授業実践を行い、その効果を検証し、全国大会で発表した。 2つ目に、情報モラルのみに限定されないが情報活用能力に関する2つの研究を論文等にまとめた。まず、1人1台タブレット端末を用いた情報活用能力の育成を目指した7か月に及ぶ小学校での実践の結果を、整理し、再分析し、再構成し、論文としてまとめた。この研究では、まず情報活用能力を7つの学習プロセスに分け、それぞれを小学生にわかるように定義した。そのうえで、3つの異なる授業形態(学習活動)を提案し、またそれぞれの授業形態に応じた思考力・判断力・表現力を測る評価テストも開発した。この評価テストの結果や、情報活用能力に対する尺度調査、ワークシートの分析等から、情報活用能力の向上を示すことができた。この研究では、思考力・判断力・表現力等に応じた学習プロセスと学習活動を示した情報活用能力を育成する指導法の開発・提案ができた。さらに、情報モラル教育を含む大学でのICT活用実践力の育成を目指した授業実践について開発した指導法を検証するために、評価の方法や協同学習の役割の違いについて分析したものを紀要としてまとめた。 3つ目に、情報モラル教育の論文調査による学習目標の種類の分析を行った研究について、整理をし、紀要としてまとめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度の目標は大きく3つであり、それぞれの進捗状況とともに以下に示す。 まず、情報モラル教育の論文調査による学習目標の種類の分析について、再度整理して、紀要にまとめることであった。これについては達成できた。 次に、情報活用能力の育成に関する2つの研究結果を整理・分析し、論文等にまとめることであった。まず、情報モラル教育を含む大学でのICT活用実践力の育成や情報活用能力の向上を目指した授業実践について、評価の方法や協同学習の役割の違いなどから検証した。その結果を紀要としてまとめることができた。また、前年度に行った1人1台タブレット端末を活用した小学校での実践については、7か月にわたる実践であったため、多くの学習履歴や教材があり、全部を検討しきれていなかった。それを整理・再分析したものを、論文として投稿し採録された。この論文では、実践結果を、一つの実践としてだけ扱うのではなく、学習プロセスや学習活動をメタ的に捉え、他にも応用できる授業設計を提案することができた。 最後に、著作権の判断力の育成に関する指導法の開発、実践、改善をすることであった。前年度の3月に実践を待つばかりであったが休校のため実践ができなかった。この指導法をさらに改善し、デジタル・ネットワーク社会に対応した著作権教育に必要な要件を挙げ、それに対応した指導法を考案した。この指導法を用いて2020年10-11月に高校1年生5クラス200名を対象とした授業実践を行った。その結果を分析した中間報告を、12月に学会の全国大会で行うことができた。 以上より「概ね順調」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は、学習目標の種類に着目し、それに応じた学習プロセスと学習活動を示した情報モラル教育の指導法の開発と提案であり、これまでいくつかの指導法をまとめてきた。最終年度となるため、本研究期間の中での社会の変化も鑑みて、以下の中からいくつかを検討しまとめたいと考えている。そしてこれをもって、次につながる情報モラル教育の指導法の開発へと寄与したい。 まず、新学習指導要領の情報活用能力の定義により、本研究の当初に考えていた学習目標の種類も、3つの資質・能力と切り離せない。この点については2020年度の研究で対応付けを行ったが、では言語能力と並ぶ資質・能力として位置づけられた情報活用能力、情報モラルはそれぞれの段階でどこまで求められるのだろうか。さらに、GIGAスクール構想により1人1台タブレット端末の導入されている。普段の授業でタブレット端末を活用することにより、情報活用能力も日常的に養う部分が多くなる。一方で、子どもたちは、学校外では既に端末を活用している状況にある。その中で情報モラルをどのように育成していくのか。情報モラルを含む情報活用能力の学習場面や発達段階に応じた定義が必要だと考えられる。 次に、社会の急激な進展により、情報モラルの教育内容も変わっている。例えば著作権教育でいえば、2020年度の研究のように、SNSの発展により権利者であり利用者であるということが増え、文化の発展のためにはパブリックライセンスの考え方を持つ必要がある。これまでの情報モラル教育の内容を一つ一つみていくことも必要だが、一つの考え方として、デジタル・シチズンシップ教育への拡張も考えられる。 尚、この研究は、当初の予定通り、本学の初等・中等情報の教員養成の学生や大学院生と共に行う。また、全国大会や研究会などで発表を行い、成果の発表と他の研究者からの情報収集や意見交換を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は以下の通りである。まず、コロナ禍により、出張の自粛や、そもそも学会が中止になったりオンライン発表に切り替わったりしたため、出張費が不要となったためである。また、授業実践等に関わる謝金も、実践のそもそもの中止や、参加人数の見直しにより、予定より少なくなった。 2021年度の計画は、最終年度のまとめとして、研究当初に立てた計画との社会的な変化を考慮に入れた研究の実施である。すなわち、新学習指導要領やGIGAスクール構想による環境の変化やSNSや社会技術等の急速な発展に伴う情報モラル教育の内容の変化を鑑みた情報モラル教育や指導法の検討する。また、それに伴い状況が許せば、それらの検討の結果を反映させた授業実践を行う予定である。 そのため、関連する研究に必要な文献や論文を収集する、データ整理や資料整理の補助ために使用する。また、授業実践のための教材費、交通費、謝金に用いる。また、学校の状況によっては実践に必要な物品を購入する場合もある。さらに、本研究では、学生や院生と行うため交通費や謝金が必要である。また、研究上、実践的な実験が必要になった場合には、参加者に謝金を支払う。さらに、研究成果を学会等で報告し、最新動向の把握や意見交換を行う。また、紀要への投稿も行う。それらの研究成果の発表にかかる費用、別刷り代、場合によっては英語の翻訳費等に使用する。
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