研究課題/領域番号 |
17K01084
|
研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
大下 晴美 大分大学, 医学部, 准教授 (00618887)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 英語読み聞かせ / NIRS / 視線追跡 / 多読 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,英語による「読み聞かせ」の効果について,NIRSと視線追跡装置を用いて脳科学的見地から検証すること,さらに発達・学習段階に応じた英語絵本の「読み聞かせ」に関する指導法についての教育的示唆を得ることである。また,本研究の特色は,発達・学習段階の異なる小・中・高・大の被検者において,英語絵本の「読み聞かせ」効果を脳科学的に検証しようとしている点である。 平成29年度は,①実験で用いる「読み聞かせ」用の絵本の選定,②倫理委員会への申請・同意書等の作成,③被検者の募集を行う予定であった。実際には,②・③は後述の理由で平成29年度中に完了することができなかったが,①については,以下の手順で選定を行った。まず,大学生対象の1年間の多読指導の実践の中で,大学生に人気が高かった絵本を20点選定した。その中から,小・中学生にも理解可能なものを10点にしぼり,ボランティアで行っている小学生対象の英語絵本の読み聞かせ会にて実際に読み聞かせを行い,実験用教材2点を厳選した。また,その際の小学生の反応から,未習語彙の多い小学生にとっては,絵のみで内容を理解することは難しいことが明らかになった。つまり,内容の補足説明を英語にて行ったり,同じ表現を繰り返すなど,実際の絵本に書かれれている文字情報以外の活動が小学生の内容理解度の向上には不可欠であることが示唆された。本実験では,発達・学習段階の異なるすべての被検者に対して同一教材を用いて「読み聞かせ」の効果を検証しようとしているため,内容が理解できない状態での「読み聞かせ」や反対に易しすぎる教材の「読み聞かせ」では,脳活性状態が正しく計測できないと考えられる。このような実践を踏まえ,平成29年度に英語学習歴の短い小・中学生に対する「読み聞かせ」方について検討し,実験方法の再検討を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成29年度は,①実験で用いる「読み聞かせ」用の絵本の選定,②倫理委員会への申請・同意書等の作成,③被検者の募集を行う予定であった。①については,計画通りに教材の選定を行い,実験手順の検討を行うことができた。ただし,②・③については,計画よりやや遅れている状況である。というのも,NIRSのレンタル申請を行ったところ,大幅に予算を超えることが分かったからである。 当初は聴覚野が存在する側頭部,視覚野が存在する後頭部もNIRSを用いて検証しようと考えており,実験期間を1カ月に設定していた。しかし,被験者の募集に先立ち,実験に参加可能な時期・時間帯を調査したところ,すべての被検者の実験を行うためには,2カ月~3カ月の期間が必要であることが明らかになった。そのため,予算超過の可能性が生じた。 そこで,現在,①使用機器のメーカー変更,②測定部位を前頭前野(ただしブローカ野を含む)のみに縮小,③被検者削減による期間の短縮を検討している。しかし,③は実験データの信頼性の問題が生じるため,①もしくは②で対応する予定である。②に関しては,測定分野を前頭前野に限った場合,「読み聞かせ」においては前頭連合野の活性は見られなかったとの報告もあるが,これらの先行研究は幼児を対象にしたもの,日本語による「読み聞かせ」を実施した時のものであるため,本研究のような英語での「読み聞かせ」や発達・学習状況の異なる被検者を対象にした実験でも同様の結果が得られるのかは検証に値すると考える。 以上の理由から,使用機器を平成29年度中に決定することができなかったため,倫理委員会への申請書類を作成することができず,被験者の募集も行うことができなかったが,現在最終調整中であり,5月末までには機器の選定を終了できる見込みであるため,平成30年度以降の研究計画には大きな支障はなく,実験を実施できる予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
平成30年度は,遅れているNIRS機器の選定を行い,①倫理委員会への申請・同意書等の作成,②被検者の募集・同意書の取得,③発達・学習段階の異なる小・中・高・大の被検者を対象に,英語絵本の「読み聞かせ」中の脳血流量の変化と,視線の動向・注視の状況の検証を実施する予定である。実験においては,平成29年度の小学生に対する「読み聞かせ」実践による考察により,英語学習の経験が不足している被検者でも一定の内容理解度に達することができるように,絵本の文字情報のみを「読み聞かせ」する方法と文字情報に加えて,参加者の反応を確認し,補足説明を行いながら「読み聞かせ」する方法の2通りの提示方法で実験を行うことによって検証を行う。なお,被験者数は,小・中・高・大の学習者各30名(計120名)を予定しているが,予算の関係上,各20名に削減することも考慮している。ただし,各段階(小・中・高・大)の被検者数に大きなばらつきが生じないように留意する。 また,平成31年度に実施する予定であった大学生を対象にした「読み聞かせ」型多読指導法の実践による指導前後での「読み手」と「聞き手」の脳血流量の変化と視線動向・注視状況の検証実験についても,予算の関係上,平成31年度に再度NIRS機器をレンタルすることが難しいと考えられるため,平成30年度中に実験を実施し,データ収集を行いたいと考えている。 以上のように,平成30年に実験を終了できるように努め,平成30年後半から平成31年にかけて,データの解析,関連学会での成果発表,および論文執筆を行う予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度は,研究計画の修正や先行研究の分析,実験用教材選定のための調査を中心に行ったため,支出は総じて予算より減じた。次年度は,NIRSを用いた実験を行い,データ収集を行う予定である。当初の予定より実験期間を延長する予定であるため,NIRS機器のレンタル料金がかかることが予想され,平成29年度の未使用額と平成30年度の予算を合算して使用する予定である。
|