研究課題/領域番号 |
17K01084
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
大下 晴美 大分大学, 医学部, 准教授 (00618887)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 英語読み聞かせ / NIRS / 視線追跡 / 多読 / 絵本 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,小・中・高・大という発達・学習段階の異なる学習者を対象に,NIRS(近赤外線分光法)と視線追跡装置を用いて前頭前野の脳血流量の変化と視線の動向・注視の状況を測定し,脳科学的見地から,英語絵本の「読み聞かせ」における効果について検証することである。 絵本の「読み聞かせ」に関しては,母国語を対象とした先行研究がほとんどで,日本人学習者に対する英語での「読み聞かせ」における脳科学的見地からの先行研究はほとんどない。そのため,前頭前野における脳血流量の変化が,絵本の読み聞かせを聞くという行為によるものなのか,母国語と外国語の脳内言語処理の差によるものなのかを検証するために,日本語と英語の絵本でそれぞれ読み聞かせを行い,その差を検証することとした。 2019年度は,実験参加者の募集や説明書の作成および倫理委員会への申請,実験を中心に行い,途中段階であるが,大学生18名分の分析を行った。その結果,16チャンネル中11チャンネルで英語による読み聞かせ聴取時は,日本語による読み聞かせ聴取時よりも統計的に有意な前頭前野のOxy-Hbの減少が認められた。 今回の実験では小・中・高校生と実験プロトコルを統一しており,日本語による絵本の読み聞かせ→英語による絵本の読み聞かせという順番を固定し,実験順序のカウンタバランスをとらなかったためなのか,英語の習熟度が高い大学生にとって,実験で用いた英語の絵本が容易すぎたのか等,英語の方が日本語よりも前頭前野の血流量が減少していた理由については,さらなる検証が必要となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2017年度~2019年度に,①先行研究のレビュー,②実験で使用する課題文の選定および実験プロトコルの構築,③実験参加者の募集や説明書の作成および倫理委員会への申請,④実験(小学生14名,中学生16名,高校生27名,大学生18名),⑤データの分析を行った。 2019年度は,上記③,④,⑤を中心に,75名分の実験を行い,大学生については,途中経過ではあるが,分析を行った。また,この内容については,学会にて発表した(九州英語教育学会,2019.12.)。高校生についてもほぼ分析が終了している。一方,小・中学生に関しては,予定数を下回ったことから,分析を保留した状態である。予定数に達しなかった原因として,小・中学校では学校単位の参加者募集に対する協力校が少なかったこと,冬休み・春休みにも実験に協力していただく参加者がいたのだが,インフルエンザの罹患や新型コロナウィルスの影響で予定がキャンセルになったことが挙げられる。また,実験中の観察では分からなかったが,分析の過程で,アーチファクトが大きく,信頼性が疑われるデータも見つかった。そのため,当初の予定よりやや遅れているという状況になった。 しかし,研究期間延長申請が受理されており,不足分・追加分の実験の協力者はほぼ確保できているため,2020年度に実施できる予定であり,その後のデータ分析,成果の発表等は順調に計画を進めることができる見込みである。
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今後の研究の推進方策 |
2020度は,予定していた20名に満たない小学生(6名),中学生(4名),大学生(2名)の実験を行う。さらに,アーチファクトが大きく,分析から除外した方がよいと思われるデータを補完する追加実験(10名分程度)を実施する予定である。その際,2019年度の大学生におけるデータ分析の結果から検証課題として挙げられた,カウンタバランスを考慮したデータを大学生については収集する予定である。 最終的に得られたデータを再分析し,①日本語と英語の絵本の「読み聞かせ」による脳血流量の変化の差異,②英語の絵本の「読み聞かせ」による発達・学習段階の異なるグループ間での脳血流量の変化の差異,③英語の絵本の「読み聞かせ」の効果について検証する。 さらに,大学生においては,英語の絵本の「読み聞かせ」における「読み手」側の脳血流の変化についても検証するために,上記の実験で用いた課題文を読んでもらい,「読み手」の時と「聞き手」の時の脳血流量の変化の差を分析し,「読み聞かせ」型英語多読指導法の効果についても検証する。これらの成果については,学会発表や論文投稿などを行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度に実験を実施したが,小・中・大学生において,スケジュールの関係上,予定していた人数の実験を終了することができなかった。そのため,2019年度に未使用額が生じた。 2020度は,予定していた20人に満たしていない小・中・大学生(12名)の実験を行う。さらに,アーチファクトが大きくデータ分析が難しい対象者のデータを補完する追加実験(10名分程度)を実施する予定である。実験の結果は分析した後,その成果を学会等で発表する予定である。 以上のことから,被験者や実験助手への謝礼,論文投稿費用等が必要となるため,2019年度の未使用額の予算を使用する予定である。
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