現在の教育システムでは補完しきれない臨床経験の差を動作解析により解明し、さらにその差を補完しうる教育システムの確立を目的として本研究を実施した。 まず臨床経験10年以上の歯科医師10名と、国家試験合格直後の研修歯科医10名でマネキン模型上で印象採得を実施し、歯科臨床における代表的なエラーである気泡の混入程度を比較検証した。研修歯科医群は優位に気泡の混入割合が高い結果となり、これまでの報告と同様に印象採得においても臨床経験の差が治療結果に影響する傾向が示された。 次に前述した2群において印象採得器具先端の軌跡をモーションキャプチャシステムを用いて動作解析した結果、臨床経験10年以上の歯科医師群は標的となる人工歯模型の周囲を相似形に近い軌跡を描きながら印象採得を行うのに対して、研修歯科医群では部分的に大きく人工歯模型から大きく離れ軌跡が乱れる傾向が確認され、動作の安定性と臨床上のエラーとの関係性が示唆された。 最後に国家試験合格直後の2名の研修歯科医に対して、まず同条件でマネキン模型上でそれぞれ3回印象採得を実施した。その後研修歯科医Aに対しては専門医が行った印象採得の目線を再現した動画教材を視聴した後に、研修歯科医Bに対しては特に教育せずそのまま再度3回印象採得を実施し、気泡の混入程度と印象採得器具先端の軌跡の変化を検証した。研修歯科医Bが前後3回ずつで気泡の混入程度・印象採得器具先端の軌跡ともに顕著な変化がなかったのに対して、研修歯科医Aは動画教材視聴後は気泡の混入頻度が減少し、印象採得器具先端の軌跡が人工歯模型の相似形に近付き安定する傾向が確認できた。 以上の結果から、臨床経験の差による臨床上のエラー発生の関係が動作解析により明らかとなり、動画教材を用いることでその差を補完しうる教育システムの可能性が示された。
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