本研究は数式だけでなく図形も手書きで入力できる新しい数学用インタフェースを開発すると共に、入力された初等幾何命題の真偽判定や証明を与える数学授業支援システムの実現を目指したものである。令和3年度は前年度に引き続いて手書き図形ユーザインタフェースの開発と命題の真偽判定機能で用いる数式処理エンジンに関する研究を推進した。 手書き図形ユーザインタフェースのプラットフォームとしてWebを採用し、図形入力部には動的幾何ソフトウェアのGeoGebraを利用した。ユーザインタフェース作成のためのJavaScriptライブラリであるReactを用いてGeoGebraをWebコンポーネントとして組み込み、Webブラウザ上で図形を入力できるようにした。GeoGebraには入力された図形の状態を調べたり変形したりするためのAPIが提供されており、それを活用して図形認識部の実装を行った。また、C言語で実装された既存の数式処理システムをWebAssembly化することによりWebブラウザ上で多項式の加減乗算を実行できるようにした。そして、これらを統合した数学授業支援システムのプロトタイプをWebアプリケーションとして実現した。この成果の一部は、統計数理研究所の研究集会「動的幾何学ソフトウェアGeoGebraの整備と普及」、九州大学マス・フォア・インダストリ研究所の研究集会「数式処理研究と産学連携の新たな発展」、およびRisa/Asir Conference 2022で発表した。 本研究におけるWebアプリケーションの開発手法は、「ユーザインタフェースはJavaScriptで、計算処理に負荷のかかる部分はWebAssemblyで実装する」というものであり、C言語やC++言語で開発されたコマンドラインアプリをWebアプリ化して公開する際に応用可能である。このノウハウは今後書籍化して公開する予定である。
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