本計画研究を1年間延長した上での最終年度となった2022年度は、a)史料の調査・収集と分析、b)学会発表4件、c)出版物3件、が活動の中心だった。a)については、ドイツのヘルツォーク・アウグスト図書館等で実地調査を行い、そこで得られた『スヘラの抜書』等の分析を進めた。b)については、国内外の関連研究者が集まる会議等で本研究にまつわる発表を行った。c)については、本研究の重要史料と位置づけている『スヘラの抜書』の内容・背景についての英語論文「The discovery and significance of Sufera no nukigaki」を執筆し、関連論文とともに学会欧文誌特集号の一部として編集・刊行したことが特筆すべき成果である。 本計画研究では、期間全体を通じて、大きく次の三つのテーマに沿って研究を進めた。すなわち、(1)南蛮系宇宙論書の成立と継承、(2)江戸初中期の時計駆動式天文模型、(3)『天経或問』の流布と影響。全体としての成果については、以下の二点に要約できる。第一に、近世初中期における「天学」概念の成立過程を歴史的に跡付けるうえでとくに重要な『天経或問』『スヘラの抜書』などの文献史料、また「ジュネーブ天儀」などの器物史料についての研究成果を、日・英両語の論文等の形で広く公開し、将来の国際的な研究の基盤を構築したこと。第二に、それらの著作・儀器の成立と継承のプロセスにまつわる実証的な研究成果を積み重ねたことで、「天学」概念成立の史的背景と、それが江戸時代における科学的自然探究の展開に果たした役割の重要性について明らかにしたことである。
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