本研究は、日本の地域医療の「近代化」を近世後期から続く長期的プロセスとしてとらえ直す。使用した医療記録は、個々の医師の医学知識・診療方法・医業経営の違いを反映していたが、明治30年代以降に平準化が見られた。地域医療の実態としては、西洋教育を受けた医師が向き合った明治期の地域社会の健康上の課題を、梅毒に注目して分析した。さらに同地域の別の在村医による近世後期から明治期にかけての医業経営においては、20世紀初頭にたるまで従来型の医療が地域社会の中で重要な役割を担っていた。両者の医療実践の比較から、明治後期にいたるまで、質の異なる医師による医療供給が同一地域内で展開していたことが明らかになった。
|