研究課題/領域番号 |
17K01192
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
谷口 陽子 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (40392550)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 二水石膏 / セッコ / グラウト / 遅延剤 / モルタル |
研究実績の概要 |
石膏をもちいた壁画に関する文献調査等を行った。日本で市販されている石膏の多くは、化学的にカルシウム、硫黄を用いて合成したものであり、伝統的な岩石から焼成したものではない。西アジアや中央アジアの石膏生産に関する考古学的な事例から、原石や焼成炉についてまとめた。原石は、おそらくselenite (CaSO4.2H2O)、anhydrite (CaSO4)、alabasterと考えられるが、産出地など地域的な特性や不純物等による分類、使い分けとの関連を把握した。 石膏モルタルの左官材料や、歯科材料としての使用方法や物性の評価については、工業界や歯科材料の分野に多くのスタンダード(ASTM、ENなど)が知られている。 石膏を水と反応させることによって生じる凝結硬化反応は、伝統的には水硬性石膏、珪酸ナトリウム、デキストリン、接着剤、リンゴ酸やクエン酸などの有機酸塩を用いて遅延させることが行われる一方で、ミョウバン、硫酸亜鉛、珪酸カリウム、ゼラチン、ニベ(魚膠)などを硬化剤として加えることもおこなわれてきた。石膏への添加材料は、分散効果(レシチンなど)、固相と液相の界面の親和性を高める効果(オレイン酸など)、増粘性(シリカ系コロイドなど)、沈降防止剤(ベントナイトなど)、消泡材(オクタノール)を利用することが知られるが、ここでは、グラウトモルタルなど注入モルタルとしての性質が求められることから、主に遅延性、増粘性、軽量化のための添加剤、フィラーを検討した。カビなど生物被害を受けない材料を選択した。また、石膏モルタルは液水に微溶であるため、離水をできる限り抑制する材料を検討した。特性のパラメータと添加剤の関係を精査した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに、石膏をもちいた壁画に関する文献調査等を行った。西アジアや中央アジアの石膏生産に関する考古学的な事例から、原石や焼成炉についてまとめた。原石は、おそらくselenite (CaSO4.2H2O)、anhydrite (CaSO4)、alabasterと考え、産出地など地域的な特性や不純物等による分類、使い分けとの関連を把握した。 当初予定していた石膏を用いた壁画に関する文献調査および石膏モルタルの使用方法に対する再評価について、順調に実施できていることから、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
各種報告書、ジャーナルに掲載されている事例から、石膏プラスターを用いた壁画、建造物装飾の事例を集成する。地域、時代ごとに分類する。北アフリカ、ユーラシア大陸全般を広く対象とする。筑波大学所蔵の西アジア資料を中心に、ほかにも国内所蔵の資料で分析可能なものであれば、可搬型蛍光X線装置やX線回折装置等を用いて、分析事例の増加につとめる。そこから、石膏(二水・半水・無水)の地域的・時期的な広がりをまずまとめる。また、壁画や建造物装飾の位置と、石膏原料産地との関係をマッピングして明らかにする。石膏の使用、種類の差異を、年代と地域とのかかわりからまとめる。石膏地の差異と広がりに関して、集成したデータを基に論文化し成果の公表を行う。 平成29年度、遅延性、増粘性、軽量化のための添加剤、フィラーを検討した結果を踏まえ、硬化時間、かさ比重の差異、せん断強度などを比較し、その結果からまた配合材料や比率を検討する。作成した各種石膏に対する添加剤を加え、出来上がったモルタルを評価する。評価については、おもにグラウティングに用いる際の注入方法および固化後の状態評価を主眼として行う。評価、試験法については、工業試験法ではなく基本的に壁画の保存修復試験に用いられているイギリス、スイスで用いている手法を応用する(流動性、離水性、作業性、収縮率、重量、界面接着評価、強度、固化時間、剥離しやすさなど)。また、透水性、吸水性、微小結晶構造等についても、ラボでの試験や走査型電子顕微鏡等を用いて比較する。手法は、シュウ酸アンモニウムを用いた石灰岩の表面処理に関する評価方法と同様とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
図書に計上していた予算が充分に利用しきれなかった。次年度、不足の図書資料等の購入に充てたい。また、石膏グラウトの利用として東南アジアの石造文化財での応用事例などについても調査する必要が生じたため、旅費として利用することを予定している。 なお、石膏を用いたエジプト、古王国時代の壁画研究については、JICAを通して調査を予定している。スネフェル・イニ・イシュテフとセセムネフェルの壁画を調査対象としている。ラマダン明け6月に現地調査と分析を予定している。また、トルコ、カッパドキアの石膏を用いた壁画については、すでに調査許可取得済みでありフォローアップの実施が可能である。現地のネブシェヒール文化遺産研究所と密に連絡を取っており、現地のローカルな石膏についても入手済みである。旅費および分析調査費用、学会での発表原稿の校正費用、原稿発表にともなう事務手続き費用等に充当予定である。
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