研究課題
文献調査から、中央アジアから西アジアにかけての地域における石膏や石灰の利用についての研究史を精査した。無水石膏を利用しているとする分析事例を調査したところ、無水浙江ではなく、二水石膏がのちの時代に検出されている事例が多くみられた。エジプト、イニ・スネフェル・イシェテフ壁画(古王国)の保存と分析調査を進めた。石膏地の最も古い事例のひとつとして位置づけられる。マルチスペクトルイメージングの手法も取り入れ、面的に材料分析を行うことを可能とした。二水石膏をグラウトやモルタル材として使用した。トルコ、聖シメオン教会の壁画を分析調査し、石膏地の壁画に関する知見を得た。純度の高い石膏が選択的に利用されていること、必ずしも無水石膏の状態ではなく二水石膏として材料が生成されていることを確認した。LC-MS分析、ELISA分析により、これらの7-10世紀の壁画にはタンパク質を含む膠着材(動物膠や植物ガムなど)をまったく利用したものではなく、むしろ、無膠着材で彩色されたものであろうという新しい知見を得た。これは、この地域の技術が、地中海のフレスコ・ア・セッコに影響を受けたものである一方で、在地の石膏を利用しているために、起こるべき炭酸塩化という過程のない彩色になってしまっていることを示唆する可能性がある。このような技術は、ビザンティン世界のなかに普遍的に見られることであるのか、この地域にのみ存在するものであるのか、比較研究が今後必要であろう。グラウト材としての二水石膏の利用については、本研究で作成した配合を基に、トルコの他の遺跡でも応用検討を実施しているところである。石膏地の彩色を持つ遺跡の保護に、ひろく応用できる可能性が高い。
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科研費新学術領域研究 都市文明の本質:古代西アジアにおける都市の発生と変容の学際研究2 研究成果報告2019年度
巻: 2 ページ: 253-258
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